前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年7月23日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第25回

学童保育(2)

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 翌年、娘は年少組になった。そこにきて2年上の年長組になった子供の父母た ちが、学童保育について慌て出し、動き出した。私みたいに子どもの入学の四年 前から騒ぎ出す親はそんなにいないらしい。市民運動なるものに無縁だった人間 が集まり、おっかなびっくり、とにかく陳情することになった。

 学童保育の状況を調べた今までの結果をまとめ、空白区が一目で分かる地図 を作製し、その必要性をワープロで清書し、説明用資料を整える。そのうえで選 挙区の市議会議員全員に面会を申し込み、たいして長くもない夏休みをつぶし て、五人の議員と一人の秘書と面談、残りの一人には電話でをする。このほか、 小学校の校長先生、お寺の住職さん、民生委員、市の担当部署の職員。手分けし て足を運び、話を聞いてもらう。

 やったことは会社の企画職の仕事に似ている。調査して、企画を立てて、資 料を作り、関連部門にプレゼンテーションして回り、目標実現の方策を探り出 す。この活動に最後まで関わった父親は私だけだったが、この種の仕事に適任の お父さんが、他に居たのではないかと今でもよく思う。父親が持つ力の数%でも 地域社会に回し、子供たちの環境を整えるのに使えばいいのにとも、思う。

 さて、学童保育に関しては規模も歴史もある市民団体が地域にあって、さかん に行政と闘っている。ほかに相談する所もなく、最初はそこで情報や助言ももら ったのだが、すぐに独立してやっていくことにした。大きな組織には主張と都合 と過去からいきさつがある。学童保育を必要とするという理由だけで集まった父 母たちが、すでにできあがっている主張に加わって、初めから行政との闘いに巻 き込まれるのは不自然に思えた。

 後日、行政担当者から「あなたがたが、地域で意見を束ねているだけで十分 ありがたい」と言われたことがある。我々は行政にとって都合の良い、扱いやす い団体だった。飼いならされたつもりはない。フェアでない対応をされればとこ とん闘う覚悟はいつでもあったし、その場合は自分たちの理屈でやるつもりだっ た。その必要がないからおとなしくしていただけだ。

 よく言えば独立した、悪く言えば世間知らずの運動はこうして続いた。

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