男も育児休職/2.育児休職を申請する

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女性達が反応する

育児休職を決めたときに、あれこれ考えた中の一つにフェミニズム運動から言葉や理屈を借用することだけは絶対に避けよう、というのがあった。たとえば、「社会的弱者である女性を助けるために私は育児休職をとりました」というようなことを私は絶対に口にしないし、それに類する意義づけは絶対にするまいと私は心に誓ったのだった。そういう大義名分をよそから借りてきて、これみよがしに振りかざすことは、どうやったって欺瞞にしかたどりつかないし嘘臭い。大義と名分は自分の身の周り半径三メートル以内で調達しなくてはならないのだ。私は家族のためと自分のために育児休職をするのである。それ以上のことを口にするのは傲慢であり滑稽というものだろう。私は女性の味方ですなどという破廉恥な言葉だけは、つつしまなくてはならない。

フェミニスト論客の小倉千加子さんは「多くの男は、男性支配を維持するためなら、いずれ平気で家事も半分やるだろうし、フェミニストにすらなるであろう」と辛辣に言い放っている。男が育児をやるにしても、それはフェミニズムとは無関係なんだと思っていたほうがいい。

それでも、私が育児休職をするにあたって気遣いの言葉をかけてくれたのが女性たちだった、ということは言っておく必要がある。それは、妻と同じく仕事で身を立てていくことを決めていた女性社員たちだった。彼女たちはほとんどが独身、もしくは結婚していても子供がいないのだが、将来の可能性の中には、出産やそれに伴う休職の問題が控えている。私の話は他人事ではありえないのだ。彼女たちの半径三メートル以内の問題と言ってもいいだろう。男たちは私の育児休職をひやかしただけだったが、彼女たちは私の前途を祈ってくれた。私がけつまづくと後が困るんだぞ、という戦略的な思惑があったかもしれないが。

ところで、結婚・出産=専業主婦志願の「普通の」女性たちはどう思っていたのだろう。どうも「変わり者研究者のおじさんの奇行」とみられているような気がしてならないのだ。しかし彼女たちは、そういうことを年上のおじさんに向かって口に出してはくれないのである。私はぜひ、本音を聞かしてほしいのだが。


〔参照文献〕

小倉千加子『アイドル時代の神話 完結編』朝日新聞社、p.185


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