妻の友人が母乳冷凍パックなるものを送ってくれた。余分な母乳を搾乳してそれを冷凍すれば、一週間ぐらいなら解凍して使えるという。母乳で育てる場合、搾乳といって、余分な乳はしぼって捨てるのが普通である。乳が張ったまま残しておくと乳腺炎という病気を起こすからだという。順調に母乳が出ている妻は、産後三週間ごろから母乳が余るようになり、それをこの母乳冷凍パックに入れて冷凍できるようになった。

いくらがんばっても、この乳を出すという芸当だけは男の私にはできない。朝、食卓の向こうで「自動搾乳機」なる機械で母乳を吸い出している妻を私は驚異の目で見ている。人間が哺乳類生物であり、牛や猫と類縁関係にあることの雄弁な証拠を私は目の当たりにしているのである。この冷凍母乳の威力は絶大であった。赤ん坊は、これを解凍して飲ませればピタリと泣きやむからだ。もっとも三十分後にまた泣き出すこともあり、これが特効薬というわけではなかったのだが……。