男も育児休職/4.いよいよ休職する

もくじまえつぎ

4.いよいよ休職する

徹夜する

仕事が終わらない。育児休職に入る前々日に私は三つの原稿をかかえて途方に暮れていた。

正月明け、机の上に仕事がたまる一方なので「育児休職への道のり」と題して一月末(つまり育児休職までに)までにやらなくてはならない仕事の一覧リストを作ってみたのだが、絶望的な気分に襲われた。よりによって各種原稿の締切が一月末日に集中しているのだ。私はこの原稿締切日が嫌いだ。そして原稿締切日が近づくと憂鬱になり仕事が手につかなくなる。日常の業務はもちろんあるし、留守中の仕事の引き継ぎだってやらなくてはならない。前もって分かっているなら早めに仕上げればいいじゃないかという正論は私の悪癖に何の効果もない。

今まで原稿締切日でさんざん痛い目に合いながら私はいっこうに懲りない。原稿締切日が近づいてくるとどこからか魔法の小人さんが机の上に現れ、勝手にキーボードを打ち始めてくれないだろうかと考えながら机の前でいたずらに時間を過ごしてしまう。しかし、英文を含む今回の三件の原稿作成にも、この魔法の小人さんはやはり出てきてくれない。

私は焦ってきた。赤ん坊の風呂は、ここ一カ月妻に任せきりになってしまった。妻はその後、自分の食事、授乳をすませて眠ってしまい、会社で仕事している私は深夜に帰ってきて一人で夕食をとるようにしている。それなのに仕事は終わらず明後日からは休職なのである。

結局、徹夜して英文論文を書き上げる。原稿があがったのが朝の六時で、この後、会社の食堂で朝食を食べる。残りの二件の原稿は日本語で短いものだから多少は早く書けて、一件は午後二時に仕上がる。しかし私の集中力と脳細胞の限界がこのあたりで来てしまった。どうにもこうにも最後の原稿に手がつかない。はあ、とタメ息をつきながら、この日何杯目かだかのコーヒーを飲み、再び、はあ、とタメ息をついてパソコンのディスプレイを眺めている。そしてまた、はあ、とタメ息をついて、またコーヒーを注ぎに席を立つのである。このままではらちがあかない。仕方がないので机の上の片づけを始め、所長のところに休職の辞令を取りに行く。その辞令を持って隣の部の友人などに挨拶をして回り、留守中の諸手続に関するメモを作ってみんなに配ったりしているうちに五時二十分の業務終了時間がやってきた。まあいいだろう、最後の原稿は土、日に書き上げて電子メールで送ることにしよう。それをP君に切り貼りしてもらおう。かくして育児休職前の最終日は徹夜明けのまま過ぎていったのだった。


もくじまえつぎ