男も育児休職/5.取材を受ける

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5.取材を受ける

広報に協力する

育児休職に入るときに申し渡されたことが、二つあった。一つは、休職中会社に来るな、ということ。万一事故があったとき業務上災害や通勤途上災害として対処できないし、何よりも無給の人間に会社は仕事させてはいけないのだ。二つ目は、この件を公にしないということであった。私の例は特例であって、一般規則に基づいて休職させるわけではないからだと言う。

ところが人事部のU課長は違う意見だったらしい。私の事例は注目に値することだから、会社の先進イメージの宣伝活動に使ったっていいぐらいだと考えたようだ。U課長自身は、人事部に移る前に女性ソフトウェア技術者としての経歴を持ち、仕事と育児を両立させてきた。そういうこともあってか、彼女は私の事例を積極的に評価し、これをもっと活用するべきだと周囲に働きかけたのである。そしてついに、私の育児休職を一般公開させるように関係者の了解を取りつけた。私の事例は広報室に回され、私たちには取材に協力してほしいと電話を入れてきた。

どうしようか。私は妻と相談した。私は育児休職に入ったばかりだ。新しい生活に慣れるのにおおわらわで、インタビューを受けてもまともな答えができるだろうか。

妻が言うには、取材を受けるのは私の義務だと言う。特例として育児休職を認めてくれた会社への恩義がある、と言い換えてもいいかもしれない。確かにU課長のような人がいたからこそ、私の育児休職は認められたのだろう。直接世話になった労働組合のW氏にしてもそうだ。そうした人々の好意にむくいるためにも取材の一つや二つは受けてしかるべきなのであろう。私は取材を受けることを決めたが、取材は、一つや二つではすまなかったのである。


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