男も育児休職/
8.会社へ復帰する もくじ/まえ/つぎ8.会社へ復帰する
子供を預ける手はずを整える
三月の初頭、私たち夫婦は区の福祉事務所からの通知を待ちかねてじれていた。そろそろ保育園に入園できるかどうかの決定が通知されるはずなのだ。私たちの今までの育児休職はすべて、四月に保育園に入れることを前提にしている。そういうふうに会社には申請してあるし、保育園の近くには駐車場まで、すでに借りてある。だが、ひと月前にならなければ保育園に入れるかどうかは分からないのだ。
認可保育園というのは、公立・私立を問わず役所の管轄下にある。国と地方自治体の援助を受けているから保育料は圧倒的に安いが、保育園への入園審査権は役所が握っている。私たちの場合、一月に区の福祉事務所に入園希望の書類を出していた。二月に福祉事務所は書類を整理し、定員がオーバーする場合には書類審査や面接でだれを入園させるかを決定する。そして三月に通知が発送されるのである。場合によったら、私たちの娘は保育園に入れないかもしれない。しかも、それは一カ月前まで分からないのである。 というわけで私たちはじれていたが、楽観材料もあった。まず、出生率の低下で保育園の競争率は下がってきている。実際に女性の育児休職制度の普及でゼロ歳児クラスはどこの保育園でも入園希望が減っている。そして、希望する保育園の場合、昨年四月に時点では定員に空きがあった。しかし、そうした楽観材料をいくら数えあげても、入れない可能性は決してゼロにならないのが現実であり人生の並木路なのだ。もしものときに備えてベビーシッター会社のパンフレットを集めたりしながら、私たちは役所からの通知を待った。 入園の通知は土曜日の朝にやってきた。第一希望の保育園に入れると言う。私たちは歓声を上げて喜び合った。当事者のわが娘はキョトンとしていたが、妻は彼女に頬ずりをして「よかったわね」を連発した。 とにかくこれで当初のプラン通り、ことを運ぶことができる。プランとは、
というものである。私は一時間、後にずらし、妻が一時間前にずらしたフレックス勤務を使って保育園の送り迎えに対応するわけだ。ただ、通勤に一時間半かかっている妻は一時間早く退社しても五時には間に合わない。さらに一時間の育児時間を取り、計二時間早く退社しすることにする。 この態勢は、送りが私に、迎えが妻に固定化されていて不公平ではある。妻は保育園に赤ん坊を迎えに行った後、家に帰って食事の準備やその他の家事もしなくてはならないからだ。勤務時間を後ろにずらしている私は、夕食の準備や家事が終ったころに帰っていくのである。そして育児時間を使って妻だけが勤務時間を短縮しなくてはならない。だが通勤時間が長い妻にとって八時半に保育園に送ってからの出勤はできない。フレックス勤務を最大限使っても十時以降の出勤は遅刻扱いなのである。 ゼロ歳児を預かってもらえる時間は朝八時半から夕方五時までであり、この時間に送り迎えをしなければならない。「仕事がしたい、思う存分したい」と歯ぎしりしながら繰り返す妻と私たちは何回となく議論とケンカを繰り返した。そして、たどりついたのがこのプランだった。妻には不公平感が残ったが仕方ない。一歳になれば預かってもらえる時間が長くなり、事態は改善されるのだ。それまでは上記のプランで送り迎えすることにして、妻が会議などで迎えに行けない日には私が迎えに行くことにしよう。 何にせよ、保育園への入園が決定し、今後の生活のめどは立った。 |