男も育児休職/8.会社へ復帰する

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保育園へ通う

保育園はいきなり、朝から夕方まで子供を預かってくれるわけではない。子供が保育園に慣れるまでの間、「慣らし保育」なる期間が設定される。最初の一日は一時間だけ預かり、それを少しずつ延ばし、一、二週間かけて朝から夕方までの保育にもっていくのだ。そうしないと子供が保育園に慣れないらしい。私の娘などは生後六カ月だから、まだたいして人見知りもせず新しい環境で戸惑いながらも遊んでいるが、一歳前後の同級生は「ママがいない、ママがいない」とばかりに泣いて大騒ぎだ。

さて、その初日の一時間の保育時間中に私がやったことは、喫茶店に行ってコーヒーを飲むことだった。実に二カ月ぶりに私は「たった一人でゆっくりとくつろぎながら」コーヒーを飲むことができた。休職中、コーヒーを飲まなかったわけではないが、赤ん坊を抱いたまま喫茶店に入ってコーヒーを飲んでも落ち着かないのである。ある店では私が赤ん坊をあやすのに四苦八苦しながらコーヒーを飲んでいると、ウェイトレスさんが見かねて「赤ちゃんをしばらくお預かりしましょうか?」と申し出てくれたぐらいだ。育児で何がたいへんかといえば、自分の都合ではなく赤ん坊の都合がすべてに優先するということだろう。保育園に赤ん坊を預けて私は久々に解放感を味わった。

会社復帰までには、まだ少し時間があった。保育園への送り迎えの生活が始まった。朝、保育園に子供を連れていく。まず、家で使っている紙おむつをはずして園指定の布おむつに替えなくてはならない。バスタオルを床に敷き、赤ん坊を仰向けに寝かせて手早く布おむつをする。個人用タンスには着替えを補充する。家での様子を書いた連絡帳を提出する。壁に張ってある登降園表に○印と朝の体温を記入する。そして保母さんの手が空いているようなら子供の具合について少し話をし、火曜日と金曜日は晴れていれば布団をベランダに干す。そして赤ん坊にバイバイをする。

子供は、それからしばらく遊んでいると九時のおやつの時間が始まる。おやつが終わってから、暖かくて晴れていれば園庭に出て遊んだり、散歩に出かけたりする。十一時を過ぎると、お昼御飯が始まり、十二時にはお昼寝の時間が始まる。二時間ほど寝て三時にはおやつが始まる。そして五時に親が迎えにやってくる。赤ん坊にとっては、そういう一日らしい。

夕方に親は保育園にやってきて、まず子供を抱き上げる。機嫌がいいと喜んでくれるのだが、機嫌が悪いと親の顔を見てもふてくされたままである。園指定の布おむつをはずして個人の紙おむつに替える。布おむつが大便で汚れている場合は洗い場で洗っておく。一日の汚れ物を引き取り、降園表に○印を記入する。一日の保育園での様子を保母さんたちが記した連絡帳をもらう。保母さんの手が空いているようなら、それをもとに子供の一日の様子について少し話をする。金曜日には布団カバーをはずして洗濯に持って帰る。

私の復職の日が近づいていた。正直なところ不安だった。そして不安というのは、すぐにカタチとして出てしまうものらしい。育児ノイローゼも手伝って、ある日、私は駐車場入口で車をフェンスに引っかけて車のフェンダーを破損してしまった。妻は私の育児ボケであると断定した。修理には一、二週間かかると言う。仕方がないので子供を抱いてバスで保育園に通うことにしたが、春の長雨はバス通園には不向きであった。私は風邪を引き、続いて赤ん坊も風邪を引いた。復職直前、私は赤ん坊と二人並んで熱を出し寝こんでしまったのだ。


〔参考文献〕

保育園に関する知識を私たち夫婦は、渡辺一枝『ワーキングマザーシリーズ@ 預けて働く時』フレーベル館、保育園を考える親の会編『保育園110番』ユック舎、たけながかずこ「30からのキャリア&子育て」大和書房、などから仕入れました。


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