TEF値が与えられているPCB分子の平面性について → ダイオキシン類のTEF表

 PCDD類,PCDF類と同等の毒性を持つとされるPCB類は新たなTEFの表にもリストアップされ,様々な調査でも測定対象になりました。そのPCB類12化合物は国内では“コプラナーPCB”と総称され,分子中の2つのベンゼン環が同一平面になっているように表現されていますが,その中にはmono-orthoのものが8種類含まれており,果たしてコプラナー(共平面)構造を保っているのかどうか,興味のあるところです。
 この点については末尾に関連研究例も付記しましたので,詳細はそちらを参照していただくとして,ここでは市販の計算化学ソフトウェアで計算した結果をまとめてみました。
 計算はChem3D・PM3構造最適化でおこない,各データの上段は2つのベンゼン環が共平面にあるとして計算し,下段は初期二面角を5°に設定して計算して得られた分子についてのデータです。DecaPCBは共平面での計算は行っていません。
 今回の計算では,non-orthoでは初期二面角を5°にして計算しても角度の変化は無く生成熱も共平面のものと差がありませんが,mono-orthoでは最終二面角が大きく増大して生成熱は共平面の場合より低くなっていることがわかります。この点については,計算方法を変えれば異なった結果が得られること,また実在分子の形状は固体・液体状態,溶液・生体中など環境によって変化し,温度の影響等も受けることに注意する必要があります。

※二面角データのクリックにより,分子モデル参照可能

分類 No. 同族体名 WHO-TEF
〔ヒト・ほ乳類〕
log TEF log (1/EC50)* 二面角 / °
〔PM3計算後〕
生成熱 /
(kcal mol-1)
εLUMO / eV εHOMO / eV χ / eV η / eV Dipole / D
PCBs
(Non-ortho)
1 3,4,4',5-TCB (81) 0.0001 a,b,c,e -4.000 0 23.20603 -1.733976 -9.404794 5.5694 3.8354 0.692
5 23.22576 -1.721337 -9.405431 5.5634 3.8420 0.691
2 3,3',4,4'-TCB (77) 0.0001 -4.000 6.15 0 23.16218 -1.776133 -9.616620 5.6964 3.9202 1.277
5 23.18132 -1.764006 -9.618451 5.6912 3.9272 1.276
3 3,3',4,4',5-PeCB (126) 0.1 -1.000 6.89 0 17.87195 -1.705313 -9.286234 5.4958 3.7905 0.702
5 17.89262 -1.692789 -9.287249 5.4900 3.7972 0.702
4 3,3',4,4',5,5'-HxCB (169) 0.01 -2.000 0 12.62942 -1.633833 -9.081004 5.3574 3.7236 0.002
5 12.65069 -1.620358 -9.082221 5.3513 3.7309 0.002
PCBs
(Mono-ortho)
5 2,3,3',4,4'-PeCB (105) 0.0001 -4.000 5.37 0 24.38706 -1.294452 -7.840685 4.5676 3.2731 1.636
56.149 20.03425 -0.260391 -9.683084 4.9717 4.7113 1.509
6 2,3,4,4',5-PeCB (114) 0.0005 a,b,c,d -3.301 5.39 0 24.65832 -1.373032 -7.923993 4.6485 3.2755 0.310
56.637 20.14944 -0.901780 -9.041937 4.9719 4.0701 0.518
7 2,3',4,4',5-PeCB (118) 0.0001 -4.000 5.04 0 23.42322 -1.520761 -8.624599 5.0727 3.5519 0.794
56.121 19.16155 -0.516440 -9.040986 4.7787 4.2623 0.690
8 2',3,4,4',5-PeCB (123) 0.0001 a,c,d -4.000 4.85 0 28.02415 -1.553511 -8.585781 5.0696 3.5161 1.333
56.007 19.13518 -0.507880 -9.386056 4.9470 4.4391 1.103
9 2,3,3',4,4',5-HxCB (156) 0.0005 b,c -3.301 5.15 0 19.18462 -1.278828 -7.802942 4.5409 3.2621 0.936
56.401 14.80727 -0.248293 -9.015699 4.6320 4.3837 0.894
10 2,3,3',4,4',5'-HxCB (157) 0.0005 b,c,d -3.301 5.33 0 19.05448 -1.241531 -7.811744 4.5266 3.2851 1.243
56.259 14.74815 0.067358 -9.356133 4.6444 4.7117 1.170
11 2,3',4,4',5,5'-HxCB (167) 0.00001 a,d -5.000 4.80 0 18.11428 -1.485742 -8.560342 5.0230 3.5373 0.941
56.150 13.88863 -0.362928 -8.924403 4.6437 4.2807 0.590
12 2,3,3',4,4',5,5'-HpCB (189) 0.0001 a,c -4.000 0 13.89890 -1.223792 -7.773708 4.4988 3.2750 0.675
56.490 9.55683 0.089798 -8.898951 4.4046 4.4944 0.496
参考(DecaPCB) 13 DecaCB 89.764 -1.59971 2.640956 -8.341838 2.8504 5.4914 0.002

χ,ηはεLUMO,εHOMOから算出(詳細).
*:以下の文献に掲載されているAhR binding affinity(Ahレセプター結合親和力).
・Ovanes G. Mekenyan, Gilman D. Veith, Daniel J. Call, and Gerald T. Ankley,“A QSAR Evaluation of Ah Receptor Binding of Halogenated Aromatic Xenobiotics”,Environmental Health Perspectives, 104(12), 1996

[注1] T,Pe,Hx,Hp はそれぞれ分子中の塩素数を示し,それぞれ 4,5,6,7 を示す(有機化合物の名前の基礎参照).
[注2] 各化合物の塩素の置換位置の番号については,代表例の図参照.

a) 限られた少ないデータセットから決めた.
b) 分子構造の類似性から決めた.
c) CYP1A誘導(サル・豚・ニワトリ・魚)からQSAR(構造活性相関)モデルにより推定.
d) 1993年のレビュー以後、新しいデータ無し.
e) 試験管でのCYP1A誘導.



球棒モデル  空間充填
Electrostatic Potential  Lipophilic Potential

共平面構造(二面角=0)


球棒モデル  空間充填
Electrostatic Potential  Lipophilic Potential

ねじれ構造(二面角=56.121°)

Mono-ortho PCB の例,2,3',4,4',5-PeCB で見る共平面構造とねじれ構造
※それぞれSculpt Mode(Chimeマニュアル参照)にして分子内回転を試すことができる.
〔分子情報表示機能により,マウスで任意の原子を選択して距離,結合角,二面角などの値を得ることも可能〕


●上記データから描いたグラフ


図1 上表の順に並べたPCB類のlog TEF,log (1/EC50),生成熱,χ,η.


「分子の形と性質」学習帳 | 「生活環境化学の部屋」ホームページ