PMMAを例にした高分子表示で述べたように,高分子物質は比較的簡単な分子一種または数種が数百〜数万もつながってできている。ところが,構成分子が一種であってもその繋がり方は多様である。ここではそのことを,ポリ塩化ビニル(PVC)例にして示してみよう。
1) PVCの構造式は,繰り返し単位を使って-[CH2CHCl]n-と表わされ,ポリエチレンの水素が1個塩素に置き換わっている。ところが1つの繰り返し単位について,その塩素が付く位置は以下の2通り考えられる。
2) 次に,塩素が付く位置が決まったとしても,繰り返し単位を2つだけ繋げるには2通りある。-(CH2CHCl)-(CH2CHCl)-[頭-尾(尾-頭)結合;下図左]と-(CH2CHCl)-(CHClCH2)-[頭-頭(または尾-尾)結合;下図右]である。
さらに長く繋がるときに,これらの結合が規則的に続く可能性と,ランダムに続く可能性がある。通常のPVCでは大部分が頭-尾結合で,頭-頭結合は1.5%程度とされる。
3) 以上2)の頭-尾(尾-頭)結合だけでできているとしても,1)のことを考えに入れれば,さらに長く繋がった場合には以下のような立体規則性の違いが存在しうる。塩素が常に鎖の同じ側にあるイソタクチック(アイソタクチック)構造[下図上],交互についているシンジオタクチック構造[下図中],ランダムになっているアタクチック構造[下図下]の3種類である。
4) 以上が低分子には無い高分子の構造の複雑さの要因であり,言い換えれば,これらのことがあるために通常高分子の構造は繰り返し単位だけ示すという見方も可能である。
さらに,1)〜3)の構造がそれぞれ決まったとしても,長い分子鎖では部分部分の微妙なねじれが全体に影響して,多様な形を取りうる。またその繋がっている長さも合成方法などの影響を受け,1分子毎に異なっているのが普通である(これを分子量の多分散性といい,ちょうど髪の毛の長さが1本1本違うようなものである)。これが高分子物質の性質に大きな影響を与えているのである(例えば,「分子の融点とガラス転移点」参照)。
以下は,上図最上段では直線状で示したイソタクチック構造のPVCがあるねじれ方を示している例である。
ただし,酵素タンパク質や遺伝子DNAなどの生体高分子では,構成単位のアミノ酸や塩基の繋がる順序や長さ(分子量の単分散性という),分子全体の立体構造が定まっていることに注意する必要がある。例えばタンパク質を構成するアミノ酸はすべてL型であることが,その構造の一義性に大きく関与している。