ITN的なサウンドを求めて vol1. 2. 3. |
正直な所、完全にITNみたいだなあ、といったサウンドって今のところほとんど存在しないというか、そうでなくともなかなか巡り合わないんですが、それでもまあ、こういうのITN的な何かがあるな、というのは少々あったりします。
例えばクラシックな手法を用い耽美的美しさを持っていること、それにニューエイジ的なシンセが加わったりしている事、中庸的で捉えどころがない所、などなど。今回はそういった個人的にITNと共通の息吹を持っていると思われるアルバムを紹介したいと思います。必ずしも一致しているとは限りませんが、ITNファンだったら多分気に入るんじゃないかなあ、逆にこのアルバムが好きならITNも気に入るんじゃないかなあ、といった尺度と思っていただければ幸いです。
Dark Sanctuary Kreidler Era AVALON 竹村延和 Digitonal Test Dept Divine Comedy Kettel Lame gold
Max richter ICEHOUSE Efterklang Marsen Jules Bola MYST the sound track Ryan Teague MOTORO FAAM Miasmah/VA Last days
平沢進 Hecq NEW
Dark Sanctuary / De lumiere et d'obscurite |
ITNが2003年にヨーロッパツアーを行った際、フランスにてITNと同時ライヴを行ったバンドがこのDark
sanctuaryでした。聞きなれないこのバンド名。しかしITNとパックでライヴを行ったからには、恐らくなにかITNと共通項があるのかもしれない? と思って調べてみる事にしました。 そうしたら、フランスのダーク・ゴシック系バンドと判明。まあバンド名に既にDarkって入っちゃってますし、おおかた予想していた通りでしたが、音楽を聴いてビックリ。さぞやギターギンギン、ダミ声炸裂のボーカルかと思いきや・・・。
美しいクラシックベースのオーケストラルサウンドに、デッド・カン・ダンスを思わせる妖艶で美しいソプラノ女性ボーカル。なるほど、ITNと一緒にライヴする訳だ、と納得。ライヴの模様を捉えたムービークリップも見ましたが、非常に静かで厳かなライヴで、その後のITNのライヴがことのほかアグレッシヴに見えるほどです(笑)。
あのDead can danceやITNをより暗くしたようなダーク・サウンドなんですが、美しい女性ボーカルにかなり救われています。全体的に非常に重くしっとりとしたサウンドで、攻撃的な側面は無い代わりに、虚無的な雰囲気が全体を覆っています。さぞや歌詞も悲しい内容なんでしょうねえ。それでもあまり憂鬱な気分にならないのは、美しいサウンドと女性ボーカルのおかげでしょう。
その魅力的なボーカルの事もあって、Dead can dance系のグループと定義してしまっても良い位ですね。ちょっと強引かな、と思ってたら、なんとDead
can danceの名曲「Summoning of the Muse」をカヴァーしたりしているので、やっぱりその影響下にあるバンドなんですね。
うーんポストDCDを目指しているのか?
バンド名、ジャケットイメージからして、明らかにダークゴシック系である事を狙っていますが、正直そんな中に収めておくのは勿体ない位のグループだと思います。ダークゴシック系なおかげでヘヴィメタル派の所でしか話題になってないようですし、かといってこのグループにはそんな要素など微塵もないと来てますから、ちょっとしたすれちがいが起きているのは、ITNと同じですね。
彼らがもっとポジティブな要素を反映しだしたら、まさしくITN系なサウンドになりそうな感じがしますが、彼らのポリシーからするとそれは無さそうですね。でも現在のサウンドの時点で既に完成し尽くした美しい世界を構築しているので、ITNファンには間違いなくオススメ出来るでしょう。特に題2期の雰囲気に近いと思います。最新アルバムも手に入れねば。他にもこういった感じのダークゴシック系グループはいるらしいんですけど、機会があれば捜してみますかね。でも正直、ダークなのにはもうお腹一杯ですからなあ。
しかし、それにしてもITNよりまして販売ルートが確立されてないためか、どうにもこうにも入手困難で困ります(笑)。せめて最新作くらい容易に入手出来るようにして欲しい所ですが・・・。
Kreidler / Eve Future |
1. La Casa I 2. L'autre Main 3. Reflectuum 4. Clockwerk 5. Circulus 6. Solaris 7. La Casa II ©Wonder |
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2002 Release |
ドイツのエレクトロニカ系ロックバンド、Kreidlerのミニアルバム。彼らはエレクトロニックを主体としたポスト・ロック的アプローチを得意とするトリオグループで、なかなか評判も良いようですが、2002年にリリースされたこのミニアルバムはどういうわけかそんなロック的アプローチを完全に沈下させ、クラシック的要素をふんだんに取り入れたニューエイジサウンドを展開しています。最初は同名の別バンドかと思いましたがオフィシャルでもリストアップされていたので、やはり同一グループによる作品なようです。企画盤なのか、それとも路線変更したのか全く謎ですが、私は勿論本筋サウンドよりこちらの方が断然お気に入りです。
彼らの熱心なファンはさぞかし戸惑うであろう本作品は、バンド的演奏はほとんど感じられず、パソコンのみでクリエイトしたかのようなホームメイド的雰囲気があって、そういや昔マッキントッシュで作られた音楽ってこんな感じだったなー、なんて回想も沸き起こる作品です。つまり、かつてのPCゲームのサントラっぽい雰囲気もあったりするわけで。そういやITNも曲をマッキントッシュで編集しているらしいですし、やっぱりミュージシャンはMAC派が多いんですかね?(笑)
やはり1曲めの「La casa」が秀逸で、弦楽器の音をサンプリングしてキーボード的に鳴らす(オーケストラル・ヒット、とか言いましたっけ?)手法を用いた実に美しいニューエイジサウンドです。
ITNと比べるとまだまだ安っぽいっというか、全体的にスカスカな感じのするサウンドですが、ITNの持つクラシック的な美しさは共通して持っているので、オススメです。
ジャケットもコミック的イラストがかわいらしく、好きですね。でもプラスチックケースに直接印刷ってのはちょっと、割れたらアウトなんで困りますねえ(笑)。
ちなみに既に第二弾が04年に発売されました。今回はミニアルバムではなく、トータルタイム45分のフルアルバムになってます。絵本を元にしてこの作品が作られているとの事で、やはり企画盤のようですね。
それにしてもこの2作目は前作よりさらにITN的な香りが漂う作品に仕上がってます。フランス語による朗読もあるし(笑)
La casaのようなインパクトのある楽曲が見当たらないのが残念ですが、これも地味ながら良いアルバム。お薦め。
Kreidler Eve Future Recall ©Wonder |
ERA / The Mass |
さあ、出ましたよ、ERAです。もう本当に好きです。ITNとはだいぶ方向性で食い違っている感もありますが、ゴシック系、力強いサウンドと美しさの融合、悲しみでもないし喜びでもないけど讃歌的な明るさを持っているなど、ITNファンはくすぐられる要素が結構詰まっていると思うのですが。
このグループもフランス発ですね。まあやっぱりこういったゴシック系サウンドはあの辺りの地域が最も得意とする分野でしょうから当然といえば当然なのでしょう。
仕掛け人であるEric leviという人は元々ヘヴィメタルをやっていた人だったそうで、多分ネオ・クラシカルな壮大なメタルサウンドを作っていたと予想します。そのノウハウを当時流行だった宗教+ダンスミュージックというカテゴリに当てはめ、このERAが誕生したんでしょう。
ファーストアルバムでは、壮大で力強い大人数による大コーラス、エニグマ的サウンド、メロディを奏でるエレキギターと、この時期大量に出回っていたいわゆるダンス系ヒーリングの中ではかなり独自性とインパクトを持ったサウンドを展開しており、私は一発で気に入りました。たしか「Enae
Volare Mezzo」はTBS系列の教養バラエティ番組「コロンブスのゆで卵」のテーマ曲として早々と使用されていたので、耳にした人も多いはずです。
ファーストはまだ何か周りの流行に流されているというか、非常にENIGMAライクな所があって、ちょっと暗めなサウンドだったのですが、セカンドから徐々に自分のスタイルを確立し始め、このサードアルバムでは、もはやERA以外の何者でもない、という独自のサウンドスタイルになったと思います。そのかわりERAの特徴だったエレキギターの調べはほとんど後退してしまいましたが、私個人はあまりエレキの音は好きではないのでむしろ聞きやすくなって良かったくらいです。
そのため、私はこのサードが一番好きです。最後の方のトラックになるともうほとんどオーケストラルサウンドと化していて、もはやENIGMA系だったなんて言わせないと言わんばかりの気迫に満ちています。
なんといってもERAの魅力は、ゴシック系でありながら、非常にポジティヴで力強いサウンドを展開しているということ。ある種中庸的といってもいいかもしれません。メタルにはシンフォニックメタルというジャンルがあって、これは壮大で力強いサウンドを展開するヘヴィメタサウンドなんだそうですが、その力強さ故によくプロレスラーの入場曲として使われるそうです。実はこのERAもプロレスの入場曲として使われているそうで、なるほど、どうやらERAの根源にはシンフォニックメタルサウンドなる物が横たわっているようですね。
ERAの魅力であり、最大の特徴である力強い大コーラス、どうやら調べたところによると、どうも何の意味のないデタラメ語、いわゆる造語で唄われているという話を聞いたのですが、本当でしょうか? なんとなくドイツ語っぽい感じもするんですが。
とすると、あのアディエマスと同じく、雰囲気だけのコーラスを使っている事になります。どのみち英語ですら分からない私にはたいした事ではないですが、ちょっと面白いですね。
そういえばたしか同じくフランス発、壮大な大コーラス、仰々しいサウンドの「Hashem」というプロジェクトグループもあるのですが、ERAと比べるとどうもグッと来るものを得られず。何でも仰々しい大コーラスがあれば良いかと言うとそういう訳でもないらしい(笑)。
AVALON / Original sound track |
ERAを紹介したらこれも紹介しなきゃマズイだろう、という事で押井守監督の映画「アヴァロン」のオリジナルサウンドトラックです。アニメではなく久々に氏が実写で撮影したこの映画、バーチャルリアリティによるゲームを題材にしたSF作品ですが、商業的に成功したかどうかはちょっと疑わしい映画ではあります。個人的にはそこそこ楽しめたのですが、一般受けは絶対しそうにないなあ、というのが正直な所。でもサントラは秀逸で、すぐさまCDを買いに走りました。
スコアを担当した川井憲次氏は押井監督の作品のほとんどを手がけており、それ以外にもアニメのサントラを中心にスコアを描いているようです。
アニメのサントラいうとそのほとんどは無味乾燥で面白みに欠ける物がほとんどなんですが、今回の実写による映画のサントラに関してはかなり重厚で美しい独特のサウンドを提供してくれていて、非常に印象深いものとなっていると思います。何でも、映画のロケ地であるポーランドの音楽スタッフにも協力してもらって、リアレンジしてもらったそうです。そうでないとこういった欧州的雰囲気は出なかったらしく、やっぱりこういうゴシックなサウンドは日本人には到底作れないんだな、ということを実感してしまいます。
テーマ曲の「Log off」なんかは良くTVでも使われたので耳にしている人も多いかと思いますが、ERA的な力強いコーラスに欧州的サウンド、実に印象深い名曲です。それ以外にも、ITNにもあるような叙情的サウンドが大半を占め、クオリティの高いニューエイジミュージックになっていると思います。
こういうのを聴くと、やっぱりITNとかのゴシック風味なサウンドって凄くゲームとの相性がいい、という事を改めて思います。日本人はRPGが好きですし、そういった世界にこの手のサウンドは実に良くしっくり収まりますからね。逆にいえば、ゲームなどのサントラにITNを思わせるような叙情的サウンドがいくつか潜んでいるのかもしれません。まああまり捜す気にはなりませんが(笑)。
竹村延和 / ミラノ |
1. 時計台の朝 2. 少年と老人 3. お爺さんの天文台 4. バンビーノ 5. 湖上のボートから 6. 湖の宿から滝への散歩 ©Warner Music Japan inc. |
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1999 Release |
竹村延和さんです。ちょっとITNとはだいぶかけ離れているような気もするんですけど、この微妙なクラシック的暖かさ、ってのはこの人独特のものですし、一応紹介しとくのもアリかなという訳で。
竹村さんというと、快心の一撃ともいえるアルバム「子供と魔法」が断然に傑作として評される事が多い気がしますが、このアルバム、確かに素晴らしい内容なんですけど実験的な要素も意欲的にいれてあるため、時折聴き辛いサウンドが横切ったり、ドラムンベースとかそんな要素もあったりしたので、個人的にはちょっと通して聴くのは辛い内容でした。
が、今回紹介する「ミラノ」はそうした実験要素を排した実に美しいアルバムとなっていて、竹村さんのアルバムの中で最も私が気に入っている作品です。
この「ミラノ」は、ファッションデザイナー、三宅一生のファッションショーための音楽として作られたものだそうです。とはいうものの、ここから一般的にファッションショーと連想出来るようなサウンドは全く見つける事は出来ません。あくまで竹村ワールド全開の内容で、「子供と魔法」から優しい部分だけを削りだしてきたかのような、何とも微笑ましくも美しい独特なサウンドでいっぱいです。
竹村さんのサウンドも独特でジャンル分けが難しい音楽ですが、ピアノや木琴といったクラシックな楽器と子供のコーラス、シンセの絡み合いが実に美しく、ゆったりとしたペースで奏でられるサウンドはまるでどこにでもある平凡な日常を淡々を描いているようでもあります。
ちなみにジャケットは名盤復刻でもないのに(笑)紙ジャケ仕様です。ええ、サイズが通常盤と異なるので実に収納しにくいアレです。豪華な感じでいいんですけど、まだデジパック仕様の方が両立出来て便利かな。同じく三宅一生のための音楽「フィナーレ」も紙ジャケ仕様でした。こちらのアルバムはちょっと無機質的サウンドが多く、あまり印象に残らず。
その後の竹村さんのサウンドはどちらかというと実験的要素が強くなったり、逆に童謡の雰囲気に接近しすぎてしまったりと個人的に深く突き刺さるものが無く、やはりこのミラノが断然一番ですね。
そういえば既に音楽活動を休止してしまったそうで、竹村ワールドは竹村さん以外作りようがない世界だっただけにちょっと残念。
Digitonal / 23 Things fall apart |
1. Come And Play 2. Seraphim 3. Over Line 4. Black Box 5. Break Beat Phase 6. Drencrom 7. Carcause ©Toytronic Records |
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2002 Release |
またもやエレクトロニカ畑から一枚。もうここまでくるとITNというよりはどちらかと言うと、オウテカとかあの辺りのテクノグループに近い感じのするアルバムなのですが、クラシック楽器とテクノサウンドをうまく噛み合わせたエレクトロニックサウンドを披露しており、結構叙情的な香りをかもし出しているのでちと紹介してみました。
音楽スタイルは前述したようにオウテカとかそんな感じに近く、そのためドラマティックさや欧州的雰囲気はさほど濃くないのですが、ピアノや弦楽器のサウンドがうまく打ち込みサウンドと重なり、非常に聴きやすくて美しい音楽になっています。このグループ、いやソロユニットかもしれませんが詳細は全く分からない無名のアーティストなため経歴や他のアルバムについては不明。
私はエレクトロニカの分野の事情は良く把握しきれていないのですが、ちょくちょくこうして購入してみたりはしています。するとこうしたクラシック系エレクトロニカには度々出くわすのですが、非常にアンビエントチックだったりジャズ風だったりといまいちピンと来ない物の方が多く、そんな中でもこのDigitonalは健闘しているというか、聴きやすくて印象に残る中庸的サウンドを展開していると思います。
これでもうちょっとITNのように仰々しい美しさが加わったら申し分ないんですが、これはこれで聴きやすいエレクトロニカですからこのままでも良いっちゃ良いんですがね。
Test Dept / Pax Britannica |
Movement I 1. Pledge 2. Jerusalem 3. Heaven's Command 4. Characters Of Light 5. Agincourt 6. Accusation Movement II 7. Territory (The Epic Of The Race) |
Movement III 8. From The Land (As An Fhearann) Movement IV 9. God, King, And Law 10. The Cracked Facade 11. Farewell The Trumpets Movement V 12. The Legacy (A Lasting Presence) ©Invisible Records |
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1991 Release |
1980年代中期、この頃はITNと共に非常に特徴あるオルタネイティヴグループが精力的に活動していて、その中の一つがこのTest
Deptでした。TestDeptはITNと同じくイギリスのバンドですが、固定メンバーがはっきり決まっている訳でもないらしく、アルバムごとに参加者が変わっているという、なんだかアランパーソンズ・プロジェクトのようなグループだったようですが、私は彼らの独特なサウンドが気に入っていて、新アルバムが出れば何も考えず即買いしていました。
当初はノイバイウンテン的メタルパーカッションを主体とした激しいドラミング・ノイズのバンドでした。元々政治的主張やメッセージ性を全面的に出したグループだったので非常に攻撃的なサウンドが主体だった訳ですが、壮大なライヴパフォーマンスを行うようになってから、だんだん民族音楽のアプローチを染み込ませ始め、バグパイプやクラシックドラムを効果的に使った独特なオルタナミュージックへと昇華していきました。
特にライヴの模様を収めたライヴアルバムの「Good night out」の「Victory」は彼らの代表曲といっても良い作品で、バグパイプとドラムが力強い行進曲的サウンドを奏で、万人受けはしないだろうけど実に印象深い美しさと力強さのある曲でした。
今回紹介するアルバムはさらにオーケストラルサウンドを加味して壮大なサウンドに仕上げています。「Victory」のような力強い名曲はないですが、ある種ITN的叙情サウンドを付け加えた、という感じでしょうか。
「Agincourt」「From the land」などは特に美しくまとまった佳曲だと思いますし。
ただそれでもTest Deptらしいメッセージ性の強い作品になっており、往々にして彼らのアルバムは攻撃的な感じのいインダストリアルなサウンドコラージュ作品も対比的に入っているので通して聴くのは難しいですし、万人にはオススメ出来そうにないですが、民族音楽を取り入れた美しさを持っている事や、ITNと同じ時代を生きていたオルタナバンドとして一応紹介させていただきました。
その後の彼らはインダストリアル・テクノミュージックに移行してまた全然違うスタイルになり、現在は休止状態のご様子。今はテクノになってからのアルバムしか手に入らないような状況になっています。後期の彼らは巷に幾らでもあるインダストリアルテクノになってしまったのであまり良いとは言えません。うーん、是非とも「Good
night out」のCD盤が欲しい。復刻してくれませんかねえ。
うむむ、無理そう・・。
Divine Comedy / Absent Friends |
お帰りなさい、ニール。 このお帰りなさいは新作を出した事についてではなく、久々に彼らしい作品に仕上がった事に対して言った言葉です。オーケストラル・ポップとも言える非常に仰々しくも華やかなサウンド作りを得意としていた彼は、叙情的なクラシックサウンドとポップミュージックを両立させた、非常に微妙な感覚の独特な世界観を築き上げ、特にファーストの「リベレイション」はまだ実験的で洗練されてない感はあるものの、私の中で類まれな傑作でした。
ところが3作目「カサノヴァ」からフランス映画をほうふつとさせる、おしゃれなイージーリスニング的アプローチに近くなり、かと思うと前作ではレディオヘッドのようなポップロック路線になったりと路線変更を繰り返したため興味が薄れ、それと共に彼の知名度も上がって私の中ではもはや過去の人になっていました。
ですが今回の新作は初期のファーストやセカンドに近い感覚に戻ってきた感触があり、ここ最近のお洒落で優雅なイージーリスニングというよりはお固い文学青年のような気難しさが再び顔を覗かせてきたので、個人的にはこの感覚が好きなのですぐに気に入りました。
シングルカットされた「Come Home Billy Bird」などは初期の軽快なポップソングに近く、微笑ましい歌詞と共にいい感じですが、このサイト的にいったらやっぱり「Our
Mutual Friend」あたりがダントツ。悲しみ、いやはたまた希望とも取れる叙情的なサウンドを奏で、よもすればちょっとやりすぎ、というような仰々しいオーケストレーションが圧倒的なインパクトをもって迫り、これはITNファンなら絶対気に入る名曲なのでは、と思うのですがどうでしょうか?
それにしても、若干20代前半にして傑作1st「リベレイション」や、完全ギターレスによるポップアルバム2st「プロムナード」などといった代物を作り上げて来たこの男、少なくとも私はこの人のことを天才だと思っているので、このままポシャるなんて事はありますまい。まあ私好みの作風のままでいてくれるかどうかなんて保証はないですけど、なにしろ私とほぼ同世代の人間、今後も何かと動向が気になる人という事には違いないでしょう。
しかしこの人つくづく伊達男ですなあ。さぞかしモテるんでしょうね(爆)。あ、もう父親になっているのか。それに比べて私は一体何をしている・・・・・。
Kettel / volleyed iron |
このKettelという人、もともとはもっとテクノやエレクトロニカといった言葉に相応しいタイプの音楽をやっている人なんですが、このU-Coverというレーベルから出たアルバムではイーノ辺りを思わせる超アンビエント系のサウンドを展開しています。
いわゆるサウンドスケープというようなタイプのサウンドですが、街のノイズやピアノの音が重なり、実に「環境音楽的」背景を持ったサウンドになっています。
アンビエント音楽はもはやITNにとって決して無関係なジャンルではありません。このKettelのアルバムにて展開されている世界はとても叙情的でもあり、それはどこかITNのサントラ「カメラを持つ男」や「Hindle wakes」に合い通じる所があります。
ですからこのアルバムを例の無声映画「カメラを持つ男」なんかのBGMとして使用しても、全く違和感ありません。いやむしろ合う合う。
この世界観とサウンドはイーノのアンビエントシリーズと同じく、決して万人受けするようなタイプの音楽ではなく、ヒーリングともちょっと違うと思っているのですが、それはこういった音楽が癒し目的で作られているのではなく、他の環境と一体化して同化してしまうような一面を持ち、店内などで流しても邪魔にならないよう設計されているからです。
しかしITNのサントラ「カメラを持つ男」がそれ単体でも素晴らしい作品であるのと同時に、このKettelの作品もまた結構聴かせる内容になっています。といってもそれぞれの曲がとても印象深い、というわけではありません。やっぱりこれは純粋な意味でのアンビエント作品であり、「メロディ」を期待すると裏切られます。つまりこれは「BGM」としてとても心地よい音楽だという事です。
イーノの「Music for airports」なんかが好きな私としては、こういうの嫌いじゃないです、はっきりいって。でもま、クオリティという点ではITNの「カメラを持つ男」の方に軍配が上がってしまいますけどね。あれは色々とカラーがあって初心者でも聴きやすいですから。
それにしても、このU-coverというレーベル、エレクトロニカ専門レーベルなんですけど、ジャケットのセンスが皆良くていいですねえ。思わずジャケ買いしそうになりますよ。このKettelのジャケットもただ単に花の写真といえばそれまでですが、実に美しいジャケットです。やっぱりセンスある人が撮るとほんと絵になりますね。
Lame gold / The homecoming concert |
1. 〜 13. No name track ©EFA |
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2002 Release |
「素晴らしきDiscreet music」でも紹介しているエレクトロニカユニット「MARZ」の一人であるAlbrecht kunzeがLame goldなる名義でソロアルバムを発表しました。これがその作品なのですが、内容はまさにジャケットが全てを物語っています。まるでITNをほうふつとさせる花のイメージの如く、たしかに耽美な世界観に満ちた美しい内容、Marzの牧歌的な肌ざわりとはまた違った叙情的なサウンドに仕上がっています。 ゴシック、というよりはラブロマンスといった言葉の方が断然似合う、哀愁漂う作品です。
曲の構成はとてもシンプルで、オーケストラやストリングスといったサウンドがシンプルにサンプリング&ループしていくといった感じで、ある種ミニマル的内容になっているのはMarzと似ていますが、それよりもかなり実験的というか、アンビエント色が強いというか、万人受けはしない感じになっているのは確かです。
まあもう少し凝った曲構成にしてくれるとか、Marzのようにうまくまとめてくれれば快作になった感も無きにしもあらず、トラックにこれといって曲名がついてない所もまた、なんとなく実験作品の粋を出切れていない事を如実に表しているかのようでもあり、少々口惜しいというのが正直なところ。
でも、この感じ、ITNファンなら結構グッと来るものがあるんじゃないでしょうかね。このオーケストレーションループによる耽美な世界観はITNファンにとっては結構ストライクゾーンかと思うのですが。
こういうタイプのサウンドって、転がっているようで意外と見つかんないので、結構掘り出し物なのかもしれません。上記のKettelと同じく、極上のアンビエント作品と解釈すればなかなかのアルバムなのかもしれませんね。 ちなみにamazon.deで試聴出来るみたいです。
実はMarzのもう一方の片割れであるEkkehard ehlers氏も負けじとソロアルバムを発表しています。彼は著名な5人の音楽家の作品を解体して再構築したサンプリング作品「Plays」をリリースしていて、このLame
goldのようにオーケストレーションループを展開したりしていますが、Lame goldよりさらに実験要素の強い作品で、音がランダムに飛び交うかのようなインダストリアル的アンビエントミュージックを披露しています。lame
goldが気に入れば買う価値はありますが、そうでなければ・・・・といった所ですか。個人的にLame
gold的なJohn cassavetesをアレンジした2曲がいい感じだとは思うんですがね。
Ekkehard ehlers Plays ©Staubgold |