ITN的なサウンドを求めて vol1. 2. 3. |
Max richter ICEHOUSE Efterklang Marsen Jules Bola MYST the sound track Ryan Teague MOTORO FAAM Miasmah/VA Last days
平沢進 Hecq NEW
Max richter / The blue notebooks |
この音楽を聞いたとき、まずフッと思い浮かんだのは日向敏文でした。でも、あの人の音楽のようにお洒落な雰囲気は皆無だし、だからこそ日向さんの音楽はトレンディドラマで多用されるようになってしまうんですが、このRichterさんの場合はかなり内向的な音楽であまりドラマとかには向いてなさそうです。
合間合間に詩の朗読がはさみ込まれたこの作品は一見コンセプトアルバムのように思えます。基本的にはミニマル的要素も含んだクラシックな現代音楽作品ですが、シンセパートも多く含んだニューエイジミュージックの趣きも強いです。
非常に暗い雰囲気がありつつも、とても美しくて優しいこのアルバムはITNファンなら気に入りそうな内容と言えるかもしれません。特にシンセの流れるようなメロディはそうだし、クラシックパートの叙情的メロディも想像力を喚起させる素晴らしい物です。
ただ惜しむらくは、クラシックとシンセのパートが別々に入っている感もあり、出来ればもう少し一体感があればITN的になったのになあ、と思える所ですが、だからといってつまらない内容なのでは全くなく、2トラック目のチェロによる曲や3トラック目のピアノソロとかは極上の美しい音楽ですし、中庸的な私好みの作品には違いありません。 とにかく公式サイトで試聴できますんで、とにもかくにも聴いてみてください。
作者のMax richterは、今回がセカンドアルバムということで今後大注目のアーティストですが、一時はデジロック一派として注目を浴びたFuture
sound of londonとかに参加したりもしています。まあだからといって両者に音楽的関連性があるかというと全然無い気がしますね。むしろ、同じ130701レーベル(ややこしい名前だ)に所属しているSylvain Chauveauとかの方がずっと近い音楽を奏でていると言えます。
こういったタイプの音楽は日向敏文しかり、そんなに新鮮味がある訳ではないのかもしれませんが、やっぱり美しい物は美しい、良いものは良いという事で。
ICEHOUSE / Man of colours |
いやー今ICEHOUSEといって一体何人の人が分かるものやら。80年代に脚光を浴び、ミッドナイト・オイルやメン・アット・ワークなどと並ぶオーストラリアを代表するバンドとまで言われたのも今や昔。ソングライターでありボーカルでもあるアイヴォ・デイビィスを中心にしたボップ・ロックバンド。
歌い方がとてもうまいのでディビットボウイやブライアンフェリーなんかと良く比較されたりしましたが、音はまあ80年代によくあったような、ほどよくエレクトリックの要素を加味したポップロック。さすがに今聴くと昔を懐かしんでしまうような気持ちにさせられてしまい少々古臭さは否めないんですが、根強いファンがいることからも分かるように、とても聴きやすくて特徴ある曲を結構残しています。
このアルバムは87年にリリースされた代表作。私がICEHOUSEを知ったのもこれからなので思い入れが特に強い一枚でもあります。1曲目などがヒットしたおかげてようやく海外からも注目を浴びるようになったんですが、それ以降あまりヒットに恵まれず下降線を辿ってしまいました。でもいまだに現役で、新作はなかなか出していないようですが精力的に活動中のようです。
で、問題なのがこのアルバムタイトルにもなった4曲めの「Man of colours」。哀愁漂う美しいスローナンバーなんですが、最近久しぶりに引っ張り出して聴いてみたら、あれ、なんかこの曲まるでITNみたいだぞ?
川のように流れるシンセストリングス、イングリッシュ・ホーンの調べ、アクセントで鳴る弦楽器の音。 こッ これはまるでITNの曲にボーカルをのせたみたいじゃないかあ・・・・・って考えすぎですか?(爆)
うーん、こんな小さな事にまで関連づけしてるようじゃあ私も相当病んできたかも。でもこの曲がとても美しい名曲なのは事実で、当時その類似性に気づいてなくとも私は気に入っていた訳ですから、なにかしら近いものはあったんでしょう。
このアルバムではなんといってもヒットした2曲めの「Electric blue」がお気に入りだったんですが、今やそれを追い越す勢いです。私も歳をとったということかな?
もうこんなアルバムなんてさすがに廃盤で入手不可能だろう・・・と思っていたら意外にもリマスター版なんかが出まわっていて、今でも比較的入手は簡単みたいです。興味を持たれた方は是非。まあ80年代の香りがプンプンしてますけど。
そいうや関係ないけどメン・アット・ワークも大好きだったんだよなあ。彼らの不幸はその後一切フォロワーバンドが現れなかったこと。真面目とオトボケが同居したバンドなんてこのバンドくらいじゃなかったか・・・・。
Efterklang / Tripper |
1. Foetus 2. Swarming 3. Step Aside 4. Prey And Predator 5. Collecting Shields 6. Doppelganger 7. Tortuous Tracks 8. Monopolist 9. Chapter 6 ©Leaf label |
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2004 Release |
こ・・・・・・・・・これは! と思わず唸ってしまった・・・。 新鋭バンドEfterklangのファーストアルバム。
この一見不気味なジャケ、「素晴らしきDiscreet music」でも紹介している同じLeafラベルのColleenをほうふつとさせますが実際、あのColleenのように危うい痛々しさと美しさが混在した内容。基本的にはバンド編成のグループなので今流行のポストロック路線(・・なのかどうかは良く知りませんが最近多いですよね)の肌ざわりを感じます。あえて言うならTindersticksとかあの辺りでしょうか。
しかし、ピコピコと静かに鳴り響く電子音とオーケストレーションが融合した、実に独特な世界が築かれています。しかも男女による合唱コーラスまで入ってもう、美しいことこの上ない。
「Prey and predator」なんてクリッキングな電子音に、男女ボーカル、オーケストラ、合唱、その上スネアドラムまで入ってますよアナタ! ITNファンがこういったサウンドに無反応でいられる訳ないじゃないですか、しかもメッチャいい曲ですよコレ! 非常に物悲しい雰囲気がありながら、かすかに見える希望のような美しい世界。 ああーこういうの久しぶりに聴いた・・・。
とにかくアルバム全体がこういった感じなので、ITNファンだったら昇天必至。映画音楽のような、それでいてコンセプトアルバムのように仰々しくもない淡々さ、いやー素晴らしい。
しかし元々ポストロック的アプローチで始めたバンドっぽいので、そういったバンドサウンド的雰囲気もあります。ひょっとするとこのグループ、この先そういったニュアンスを高めていくかもしれないなあ、と感じだのですが、どうなんでしょ。要するにITNのようなグループとは目指している物が違うな、と感じた訳です。
個人的に巷のポストロックって言うのには、私はたいして興味ないので、このグループにはこの先あまり期待していなかったり(笑)。(つまり、今回のアルバムはたまたま私と波長が合っただけなのではと疑っている)
まあそれはともかくこのアルバムは素晴らしい出来です。ITNファンだったら是非このアルバムは買うべきです。いや、必ず買いなさい。
いや、命令だ買え!!(笑)
まあ期待していないとは言え、もしまたこういった叙情的アルバムをだしてくれるのなら大歓迎ですよ。願わくばこの路線を是非とも極めて欲しいもんですが。 まだ最近の流行に流されている感もあるので、この独自路線を追求して実験的にならずに、美しさに磨きをかけてもらいたい。
今なら公式サイトで「Prey and predator」のプロモを見ることが出来ます。古い映像を巧みに繋げたサブリミナルな密室的映像。これはこれでなかなか面白いですが、個人的にはこの曲を聞くと広い大地と青空(曇り空?)を感じます。まあ感じる物は人それぞれですけどね。
Marsen Jules / Herbstlaub |
1. Fanes D'Automne 2. De La Mort D'Un Cygne 3. Aurore 4. Aile D'Aigle 5. Tous Les Coeurs De Cette Terre 6. Chanson Du Soir ©TOWERBLOCK |
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2005 Release |
まずいきなり1曲目から「おっまるでITNみたいだ」と思わせます。普段のITNというより、サントラで見せるアンビエント調のあの感じです。叙情的ドローンサウンドと、アクセントのように奏でられるピアノ。おおー、まさにこれはヨーロッパの情景。こうしたクラシックベースのドローンサウンドが大半を占めるこのアルバムは、実に心地よくて聴きやすい好アルバムです。
この人、元々ネットレーベルで活動を始め、MP3などを無償で公開していたのですが、今回めでたくCDリリースとあいなったようです。
ネットレーベルというのは、ネット上でのみ存在するレーベルで、作品もネット上でのみ公開。どういうわけか殆どは無償のMP3で公開されており、一応アルバムとしてまとめてジャケットまでこしらえるのですが、基本的にパッケージングはされていないため、まあ表面的にアルバムらしくみせるためにやっているって感じです。
最近怒濤のごとくこのネットレーベルが増えてきているようですが、あまりに多くて全然追いかけられませんっていうか追いかける気力も失せるほどの増殖ぶりです。
勿論今でもこのネットレーベルでのMarsenさんの作品は聴く事が出来ます。このアルバム以前に、ネット上で「Yara」というアルバムをリリースしています。勿論無償配布。やはり今回紹介している上記アルバムと同じく、ゆったりとしたドローンアンビエント作品が中心で、これらを聴けば、このアルバムの内容も容易に想像がつく事でしょう。彼の公式サイトにレーベルへのリンクがあり、例えばSutemosというレーベルでのBrouillardという曲は、いかにも彼らしい曲のひとつです。 無償配布とはいえ侮るなかれ、とにかくどれもクオリティが高いので驚きです。
素人も玄人も勝手に配布できたせいでゴミクズのような曲であふれてしまったMP3.comの時とは違って、レーベル運営者が吟味する立場が存在するので、そういった事態は極力少ないようですね。なんて知ったクチ言ってますけど、ネットレーベルについて私はまだど素人です。でも、今回のように、ここからプロが羽ばたいていきそうなのは確か。現にMarsenさんはその一人になりましたけど。
ともかく、こうしたアンビエント作品は結構人気が高いようなので、ITNも決して誰にも理解されない音楽ばかりやっている訳ではなく、ただ単に存在自体が知られてないだけなのでは、と彼の音楽を聴いてそんな事をフッと思いました。Marsenさんの曲が気に入った人ならば、ITNの無声映画サントラシリーズもきっと気に入るはず・・・。逆にITNサントラが好きな私はMarsenさんの作を当然気に入った訳ですが。
Bola / Gnayse |
1. Eluus 2. Sirasancerre 3. Heirairerr 4. Effanajor 5. Opanopono 6. Pfane, Pt. 1 7. Pfane, Pt. 2 8. Vhieneray 9. Papnwea 10. Effaninor ©Skam |
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2004 Release |
ボーズ・オブ・カナダという有名なユニットがいます。彼らはテクノ畑から出てきましたがエレクトロニカ等の要素も大きく、その叙情的で不可思議な音楽が話題となり、今ではオウテカなどと並んで際も有名なテクノ・バンドのひとつです。その彼らとよく比較されるのがこのBOLAですが、確かに叙情的なメロディにエッジの効いたビートが重なるという、ボーズ・オブ・カナダと良く似た手法で曲が構成されています。
どこぞの古い音源から持ってきたかのような弱々しくて幻想的なメロディとリズムが重なるボーズ・オブ・カナダに対し、BOLAはITNのようなシンセ・ストリングスやクラシックスの要素がリズムと重なり、まあどちらにしても美しいメロディを打ち出しています。個人的には、ボーズオブカナダよりもBOLAの方が好みなのですが、それはBOLAの方が純粋でまっすぐな音楽に思えるからです。ボーズ・オブ・カナダも素晴らしい曲をたくさん作っているので好きなんですが、なにか凄まじい毒があります。
例えると、ボーズ・オブ・カナダの音楽で私が連想する映像は決まって古い8ミリフィルムのような画像なのですが、そこには子供たちが草むらで無邪気に遊んでいる姿が映っています。ところがその背後に何故か真っ黒いコートをまとい顔も三角の覆面を被った、まるで死刑執行人のような男が遠くからじっと子供たちを眺めているのです。 その男は結局最後まで何もしないのですが、美しい古ぼけたフィルムに終始チラチラと映りこみ、なにやら得体の知れない不気味さが漂います。それが私にとってのボーズ・オブ・カナダのイメージです。
BOLAは純粋に美しいテクノ・エレクトロニカサウンドというイメージがあり、それはITNを聴いている時と良く似ています。つまりその時々によって感じるもの、連想するものはまちまちで、コレといったイメージが決まっている訳ではありません。個人的にこういった自由度が残った音楽というのが私の好みなので、BOLAの方を良く聴きます。
今回紹介しているのはBOLAことDarrel Fittonの3作目にあたる作品。1作目からほとんど変わっていないと評価されているBOLAですが、個人的にはこの作品が一番美しくて叙情的だと思います。ファーストも聴きやすくて良かったけど、やっぱりまだテクノ寄りな音楽と思えました。
ITN的か、と言われると微妙ですが、叙情的・クラシック的という部分においては共通しています。恐らくはヴァンゲリス的な要素が高いかと思われますが、まあこれも全体的にはそうだとは言い切れないでしょう。どちらにしても微妙な地味さ加減がたまりません(笑)
しかし、BOLAのアルバムで唯一残念なのはジャケット。写真を幾重にも重ねたコラージュによるアート作品なんですが、えらく不気味です。これといって何の意味もない抽象的作品ではありますが、どことなくBOLAの作風と合ってない気がするのでもったいないなあと思う訳です。そういうセンスの部分では、不気味だが幻想的で、自分たちの特徴を良く表わしているボーズ・オブ・カナダのジャケットの方に軍配が上がってしまいますね。
MYST the sound track / Robyn Miller |
MYST、懐かしいと思う方も多いかと思いますが、今でも続編が作られ、とうとうシリーズ完結編も登場、一応の終了宣言がなされたようです。でも実際のところ今後どうなるのかは知る由もないです。
かつてはマッキントッシュのゲームとして知られ、その後他機種、コンシューマと次々に移植、いまやアドベンチャーゲームの代名詞とまでになった化け物ゲームですが、このMYSTと言うゲームはそもそもたった2人の兄弟によって生みだされた非常に小規模なゲームでした。
CGによって描かれた美しい島の情景、しっかりと細部まで丁寧に作り込まれた世界観と描写。非常に巧みに配置された謎解きの要素、どれもが斬新かつ魅力的で、私も当時はガッツリはまった一人です。
今では3Dで中をウォークスルー出来るのは当たり前でしょうが、当時はそんな事はまだ難しく(ましてやMACですから)、このゲームは一枚絵を順々に見せていく事で舞台となる島を巡るようになっていました。いわゆる紙芝居方式というやり方です。でもその独特なやり方がこの世界観をうまく表現し、何とも言えない独特な雰囲気がゲーム全体を覆っていました。明確なヒントも何も出ないので「最も不親切なゲーム」と言われたりしましたが、謎の構築があまりにも良くできていて、しっかり周囲を見渡し、冷静に分析すればおのずと答えが導き出されるので、謎を解くのは苦痛でもなんでもなく、むしろとても楽しいものでした。
さて、今回紹介するのはそのゲーム内で流れていた曲をコンパイルしたサウンドトラック盤です。長い間、このサントラは本社Cyanのサイトでしか手に入らなかった物でしたが、今ではアマゾンで気軽に買えるようになっています。
曲は勿論インスト中心で、異国情緒溢れる独特な美しいサウンドです。私はゲームを中断した時にながれるシンセの曲が好きで聞き入っていました(Un-finale)。皆非常にシンプルな楽曲ですが、後にリリースされる続編「Riven」のサントラのアンビエント・ドローン的展開に比べると、かなりカラーがあって様々なタイプの曲を楽しむ事が出来ます。
この曲群を作ったのは、ゲームの作者であるミラー兄弟のうちの一人、弟のロビン・ミラー氏でした。
元々音楽的教育はなんら受けてなかったロビン氏ですが、このゲームで彼は作曲から曲の構築まで全てをやっているようです。もしスタッフに作曲出来る人でもいたのならその人に任せていたのかもしれませんが、まあなにしろ当時はスタッフは2人だけですし、全部を自分たちで作りたいというこだわりもあったのかもしれません。なんにせよ、ロビン氏の作ったサントラは、非常にゲームの雰囲気とマッチしていました。
やはり曲は全てマッキントッシュで作られているみたいで、いかにも当時作られたゲーム的シンセ音で占められています。でも聞いてみると、おやっと思う人もいるはず。そう、なんとなくITNの雰囲気に似てるところがある?
実はそう思うのは当然で、やっぱり両者とも使っているパソコンやソフトウェアが一緒なんで、おんなじ音色が流れているから、そう感じてしまう訳で。特に初期のITNはコレに近い雰囲気がありますよね。シンセストリングスなんて、もう同じですからね、音色が。
逆にこういうのを聞いて比較しちゃうと、ああ、あれとあれとあれなんかはみんな生音じゃなくてシンセなんだなーなんて気付いちゃうんでちょっと寂しかったりするんですが(笑)、MYSTのサントラもITNの楽曲も、両者共にちゃんといい雰囲気があるし美しいし、それならそれで全然無問題。
そういえば当時はちゃんとしたシンセなんて何千万もしたんでしたっけ。シンクラヴィアとかありましたなあ・・・。そんな高価な物が買えないアーティスト達はこぞってMACで曲を作ってたんでしょうね。ITNもそうでしたし、まさに貧乏ミュージシャンの助け船。だから当時はこの手の音が多かったんですよ。
ま、ITNやその他のインディー系ミュージシャン達は今でもちょくちょくこの音を出してますけどね。
ええ、皆貧乏ですからね(超失礼)
Ryan Teague / Coins & Crosses |
1. Introit 2. Coins & Crosses 3. Nephesch 4. Tableau I 5. Fantasia for Strings 6. Accidia 7. Seven Keys 8. Tableau II 9. Rounds ©Type |
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2006 Release |
イギリス在住の、期待の若手コンポーザーRyan Teague。 この人、同レーベルのTypeから既にミニアルバムをリリースしています。 これはオーケストラと電子ノイズを融合させたような実験的アンビエントに仕上がっており、なかなか美しいアルバムだったのですが、まだ実験要素が高い感もあり、ううんあともう少しキャッチーで壮大なサウンドならなあ、と惜しい気持ちも私の中であったのです。
さて今回の作品が事実上のデビューアルバムとなる訳ですが、背後にアンビエントチックな電子ノイズやシンセが流れる中、オーケストレーションが奏でられるという構成は前作と同様。しかし、今回はなおも増してそのオーケケストラの壮大さと美しさが際立つようになりました。つまり前回で少々不満だった部分が本アルバムではだいぶ払拭されており、まさにITN的叙情世界が繰り広げられています。
曲によってはほとんど映画のサウンドトラックのようなスコアもあり、エレクトロニカとかアンビエントと言うよりは確実に現代音楽的内容のアルバムといって差し支えないかもしれません。しかしアクセントとして導入されている電子音やシンセがこの人の曲に特徴を付けているのも確かで、当初私は前作と同じ人が作ったものとは気付かないで聴いていましたが、その独特な電子音で、あれ、これなんか前に聞いたことあるぞ・・・と各当するアルバムを探し出したら見事同一人物だったという。
あまりにも優等生すぎる内容故にベタ過ぎてあまり面白みがない、なんてな意見もあるみたいですが、純粋に美しいアルバムなので上で紹介しているMax
Richterとかが好きなら俄然オススメ出来ます。 勿論、ITNの叙情的部分に魅せられている私のようなファンにもね。
レーベルサイトで少し試聴出来ます。
MOTORO FAAM / Fragments + |
MOTORO FAAMは日本人3人によるグループで、ピアノやバイオリン奏者とラップトップによる電子サンプリング奏者が一緒になったという一風変わった編成のバンドです。
今回紹介しているアルバム「Fragments」は良質なエレクトロニカを輩出し続けているU-Coverレーベルから一時は出ていたものの、限定のCD-Rだったせいであっという間に廃盤となってしまったアルバムでしたが、今回めでたくリイシューされました。
厳密にITN的かと言われたら全くそうではないと言えるけども、ピアノやバイオリンといった楽器と電子音という組み合わせ、叙情的なメロディ群は純粋に美しく、ITNが好きならきっと気に入るハズのタイプの音楽であり、勿論私も一聴してすぐに気に入りました。
メロディは勿論、声によるコーラスや、バックでリズムを刻む電子音も非常に効果的で、美しさに磨きをかけています。3トラック目の「Change
of a Cityscape」や4曲目の「fragments call」等のメロディの美しさは言うに及ばず、とにかく全体に漂う、少し悲しい感じがしつつも非常に前向きでポジティブなイメージが好感触です。
このMOTORO FAAMというグループは毎回こういうサウンドを構築している訳ではなく、アルバムによって異なったコンセプトで制作するプロジェクトであるため、今回のアルバムが私のお気に入りとなったのは結局「たまたま」でしかないというのが残念な点ではあります。それが証拠に、前アルバムは非常にダークで憂鬱なサウンドですし。
また、ラップトップによるサンプリング・コラージュが主体とも言えるため、そこかしこにそういったコラージュによるサンプリングテクニックが見受けられます。個人的にはその辺があまりにも突出し過ぎている部分もあり、ちょっと不協和音というか、せっかくの美メロを台なしにするような強引なコラージュが入っているのはちょっと余計に思えました。
まあそれも頻度としてはさほどではなく、曲の前後のつなぎ目でやっている場合が多いので、気にならないレベルではありますが。
なんにしても、叙情的で何度も聴きこめるような良いアルバムである事は確かですので、個人的には愛聴盤確定です。
彼らの公式サイトで試聴できるので是非一度はお試しを。今回のリイシューにはボーナストラックとしてリミックスも収録されていますが、ラストを飾るU-coverオーナーであるontaysoによるリミックスは正直どうかと(笑) もう少し原曲の美しさを残して下さいよ。
あーそれと最近のU-coverのジャケはシンプルで良いんですが、トラックリストすら無いシンプルさはちょっと困るんですけどね。どうせネットに繋げるんだから、そこから持ってくればいいっしょ?てな感覚ですか?
デジタルではなくモノで買ってるんだからそれくらいしっかり作りましょうよー(笑)
VA / Silva |
Miasmahはノルウェー発のレーベルで、我がサイトでも度々話題に上がっているDeaf Centerのメンバーが主催している事でも知られている要注目のレーベル。これはそんなレーベルから発売されたコンピレーションアルバムです。
元々このレーベル、MP3での配信が中心でしたが、このコンピを皮切りにCDリリースも行うようになった訳です。このレーベルが扱う楽曲はコンピのメンツからも判るように、クラシカルで現代音楽的な様相を持ったエレクトロニカ・ドローン・実験音楽で、以前にも紹介したRyan teagueやMarsen julesも参加している事からだいたい察しがつくと思われます。
"ロマンティック・ホラー"なんて言われるくらいなので、全体的にムードは暗く、中には非常に実験的で暗黒的な一面を持つ楽曲も含まれていますが、ベースが現代音楽的であるため、美しい曲が多いのも事実です。
そしてこのコンピで最も注目すべきなのが、Yasumeという奇っ怪な名前のアーティストで、収録されている"Wakare"という曲が、実にITNにそっくりな楽曲なのです。
ITNがエレクトロニカ化したら多分こうなるだろう、というような雰囲気であり、バックのストリングスやメロディはサントラシリーズに相通ずるものがあります。ひょっとしたら使っている音源とかシンセが同じだから、とかそんな単純な理由によるものかもしれませんが、それにしては雰囲気が酷似しててビックリしました。ITNのサントラの楽曲がこの中に交じっていても多分違和感無いんでしょうね。特にカリガリ辺りは合いそうです。
とりあえずこのWakareという楽曲はレーベルサイトで少し試聴できますので聞いてみてください。
このレーベル、どちらかというと暗い雰囲気の曲を作るアーティストが多いため、個人的には好みにジャストフィットする訳では無いものの、Rafael Anton Irisarri等はとてもいいアルバムを作っていますし、数少ない現代音楽的レーベルなので注目度は高いです。
Last Days/ Sea |
n5MDという、どちらかというと実験色の強いレーベルから出たLast Days。Graham richardsonによるソロユニット、このレーベルにしては非常に叙情的かつメロディアスな作品で、他のテクノ・実験的エレクトロニカ作品に比べても異彩を放っていました。しかしこれ以降、n5MDはこうしたタイプのサウンドを扱うようになってきており、時代の流れと共にどのレーベルも新しいサウンドを模索し始めているのでしょうか。
Last daysは、アンビエント・ドローンやノイズが主体としてありながらも、アコースティックギターやピアノといった生楽器が重なり、美しいメロディを奏でているおかげで、非常に聞きやすく、かつ叙情的サウンドで溢れています。
中でも8トラック目の"Nightlight"は、まるでITNを彷彿とさせるようなシンセストリングス・アンビエントサウンドになっており、ミニマルに奏でられるピアノサウンドが実に心地よい曲です。
それ以外にも、アコギが非常に特徴的に耳に残る楽曲や、スローコアのポストロック風なサウンドもあったりと、中々変化に富んだ内容で楽しませてくれます。アンビエント調のアルバムでありながら退屈しないのは、こうしたバラエティに富んだメロディがあってこそでしょう。
霧の中に埋もれた海辺とおぼしき風景をとらえたジャケットはこのアルバム全体を良く表現しており、感傷的で叙情的な楽曲を引き立てています。個人的にマイベストのうちに入る素晴らしいジャケですね。楽曲同様、とてもシンプルで美しい世界観です。
ちなみにLast Daysは07年に新作"These Places Are Now Ruins"を発表、前作同様、アンビエント主体の叙情的メロディアス・アルバムに仕上がっており、ますます美しさに磨きがかかっています。この新作も非常にお勧めです。レーベルサイトで視聴出来ますので是非一度聞いてみてください。
Last days These Places Are Now Ruins ©n5MD |