ITN的なサウンドを求めて vol1. 2. 3. |
賢者のプロペラ / 平沢進 |
1. 賢者のプロペラ 2. ルベド(赤化) 3. ニグレド(黒化) 4. アルベド(白化) 5. 円積法 6. 課題が見出される庭園 7. 達人の山 8. 作業(愚者の薔薇園) 9. ロタティオン(LOTUS-2) 10. 賢者のプロペラ-2 ©ChaosUnion |
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2000 Release |
私にしては珍しく邦盤です。それもかなりメジャーですね。しかし、それにしては世間の認知度は低いという変わった人です。長い間活動してきた割にはメディア露出が極端に低い事もあって、今まで謎の多い人でしたが、最近彼の曲が映画のサントラなどに使われるようになったおかげで徐々に浸透してきたように思えます。実際、私も彼の魅力に最近になってようやく気付いた一人ですからね。
とは言え、私とて平沢氏の事を全く知らなかった訳ではありません。彼が日本におけるテクノポップ界の創生期を支えた重鎮の一人であるという事は知っていたし、伝説のテクノポップバンド「P-MODEL」の一員であったこともです。 しかし、このP-MODELというバンドはテクノポップというジャンルで紹介されていたものの、私にはどちらかというと完全にロックやパンクの文脈内にあるバンドにしか聞こえなかったため、自分の趣味の路線とは大きく違う物と判断、当然それの中心人物である平沢氏共々、今まで完全にスルーしていた訳です。
しかし前述したように、最近彼のソロ作品を聞く機会に恵まれ、自分のやってきた事の過ちを悟るに至ります。彼のソロ作品は、むしろ私のツボど真ん中にある音楽だったからです。今となっては「今更ヒラサワ?」とか冗談でも言いたくなるほどすっかり私の中で定着しました。まさしく今更ながら。
さて、彼の音楽を一言で表す事は、非常に困難です。元々テクノ畑の人なので当然それが核にありますが、しかしここのコーナーで紹介している通り、ITNと何か似た息吹を感じた事は事実です。例えば彼の音楽はシンセストリングスを執拗というくらい多用しており、そういった音の持つ幽玄な雰囲気が全体を覆っています。つまり叙情的で美しい側面が常に内包されているのです。
彼の音楽が際立って特徴を持つようになったのは、タイなどの東南アジアで受けたカルチャーショックが曲に反映され始めてからですが、そのためアジア的な雰囲気やコーラスが入り交じり、どことなく初期にあったENIGMAの雰囲気にも近い物を受けます。例えば「Return To Innocence」とかを連想すると分かりやすいかもしれません。
で、どのアルバムを紹介しようかと迷いましたが、とりあえず2000年にリリースされたこのアルバムを。
彼のソロアルバムのクオリティが上がったのは、個人的に98年発売の「救済の技法」からと個人的に思っていて、それ以前から既に彼独特の世界観は確率されていたけど、まだその頃は「邦楽ポップソング」という枠内に収まっているような感じを受けたのです。しかし現在の彼はその枠を大きく飛び出し、まさに唯一無二の世界を築き、このアルバムはそういった世界観がいかんなく発揮された一枚と思っています。
彼独特な裏声を使った歌唱法、全体を覆うストリングスの叙情的世界観、独特な雰囲気を持ちながらポップなメロディで非常に聞きやすい。ちなみに、このアルバムの曲の断片はアニメ「千年女優」で多用されたため、聞いた事がある方も多いかもしれません。 個人的にはタイトルにもなっている一曲目が本当に素晴らしくて、美しい名曲だと思っています。
ああ、それとこのアルバムに限った事では無いですが、彼の唄い方や、歌詞は非常に独特で、特に歌詞はその最たる物。正直全く意味不明です(笑)。言葉のチョイスも独特で、「超絶」とか、「庭師」とか、かと思うと突然「ダントツ」とか「テラ」とかカタカナ語が出てきたり。そもそも、賢者のプロペラって言葉のセンスもかなりキテます(笑)。
しかしその意味不明な歌詞と独特な歌声が相まって、他の音と融合して混じりあい、一体となって耳に飛び込んで来ます。つまり、私が邦楽でいつもネックに感じている、言葉の意味がダイレクトに伝わってしまって、かえって邪魔、という事がない。これは個人的には大助かりですね。 最近の氏のアルバムには特にそれを強く感じます。
ただ、平沢氏の音楽はあまりに仰々しい上に独特なので、聞いた人によっては「怖い」とか「不気味」「宗教っぽい」とも思われがちらしいです。まあこれは仕方ないかもしれません。通常のヒットソングの枠内の人じゃないですからね。これはITNも同じですけどね。
なお平沢氏のアルバムで、個人的にお勧めはこれの他に、アニメ「パプリカ」でも使用されたアルバム「白虎野」(サントラ版も含む)、前述の「救済の技法」あたり。特に白虎野は素晴らしい曲なので、公式サイトで是非視聴してみて下さい。(今ならパプリカで使用されたヴァージョン「白虎野の娘」がフルで聞けます。)
賢者のプロペラに関しても、ココで幾つか視聴可能です。
Night Falls/ Hecq |
1. Nightfalls 2. Never Leave 3. Dis 4. Dis (Reverberation) 5. Bending Time 6. Aback 7. Come Home 8. Giants 9. Magnetism 10. Red Sky 11. Above 12. I Am You ©Hymen |
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2008 Release |
HecqはBenny Boysenによるソロユニット。レーベルがHymenという、ブレイクコア等の激しいアブストラクト・テクノを扱っている所から出ている事からも分かるように、本来彼が得意としている楽曲は、こうしたブレイクビーツが効いたゴシック系テクノなのですが、今回紹介しているこのアルバムはどういう訳か普段のビートが極限まで押さえられ、ダーク・アンビエントな作品に仕上がっています。本来の彼のスタイルだったなら私の守備範囲外であるため見向きもしなかった所でしょうが、このアルバムにはさすがに引っかかりました。ITN的とも言える、幽玄で物悲しくて、そして途方もなく美しい世界が広がっていたからです。
基本的にはアンビエントミュージックといって差し支えないでしょう。しかし節々で聴くことが出来るITN的なメロディとストリングス、タイトルにある「Night」が示すように、まさに夜の情景がぴったり来る叙情的世界観。元々彼の音楽にはこうしたゴシック系によく見られるロマンティックでダークな部分が一環してあったようですが、それはここでも健在であり、それがアンビエントミュージックとなって見事に開花しています。
中盤では彼らしい実験的でダークな要素も少々見受けられたりもしますが、基本的にゆったりとした、いわゆる暗黒的なアンビエント作品です。しかしメロディはしっかり打ち出してきており、いわゆる不気味、不快感といった所まではギリギリ踏み込んではいません。そのため、普通にアンビエントが好きな方ならお薦めできる作品になっていると思います。
何といっても序盤のトラック「Dis」や、ラストトラック「I Am You」などの曲の幽玄な美しさは特筆ものです。特に私は「I
Am You」が大のお気に入りで、ITNが好きならこの美しさは分かっていただけるんじゃないでしょうか。
力強く、物悲しくて切なく、そして美しい。
ここのサイトで彼の曲が色々聴けるようですので、このアルバムの楽曲を是非とも試聴してみてください。