◆ 染料の種類 ◆
Jmol版

 衣類などの染色に用いられる染料は,その性質・染色法から以下の表のように分類される.
 量子化学の進歩により,分子が色を持ちためにはどのような分子構造が必要かがかなり解明されてきている(例えば,「色をもつ分子」参照).染料でも長い共役二重結合系を有するものがほとんどで,特に以下のアゾ基(-N=N-)やアントラキノン構造を持つ平板構造のものが多い.

 
  アゾ基    アントラキノン

 また,染料はただ色があればいいのではなく,繊維と結合するための基(直接染料の -NH2 基,酸性染料の -SO3Na 基,あるいは媒染染料が媒染剤の金属原子と配位結合するための -OH 基など)や,水溶液で染色する場合は水溶性にするための基(直接染料の -SO3Na 基など)が必要であるなど,目的に応じた複合的な構造になっている.

染料部属 一般的な性質 染料の例
直接染料  一般に水溶性で,木綿,羊毛,絹等の動植物繊維によく染着する.特にセルロース系繊維によく用いられ,中性または弱アルカリ性浴で,中性塩等を助剤にして染色する.色は鮮明さを欠く.堅ろう度はだいたい中級であるが,洗たく堅ろう度が低く,後処理をする場合がある.また,シリアス(Sirius)染料と呼ばれる一群は日光堅ろう度がすぐれている.化学構造からみれば一般にスルホン基を含む色素酸のナトリウム塩であり,D-SO3Naで示される. C.I.Direct Red 2
 C34H26N6Na2O6S2
C.I.Direct Red 28
 (Congo Red)
 C32H22N6Na2O6S2
酸性染料  酸性染料は水に可溶で,羊毛,絹,ナイロン等によく染まる.硫酸,蟻酸,酢酸等の酸性浴で染められる.セルロース系繊維には染まらない.堅ろう度は低いものから高いものまであり,色調は鮮麗で,各種そろっている.いずれもスルホン基,カルボキシル基等の酸性基を含む色素酸のナトリウム塩であり,直接染料と同様,D-SO3Naの一般式で示されることが多い. C.I.Acid Orange 7
 (Orange II)
 C16H11N2NaO4S
塩基性染料  塩基性染料は,絹,羊毛には中性または弱酸性浴で直接に染色することができるが,セルロース系繊維には直接染着力がなく,タンニン酸のような酸性物質で媒染してから染色する必要がある.染着力が大きく,色調が鮮やかであるが,堅ろう度が低く,特に日光に弱い.最初の合成染料Mauveをはじめ,初期の合成染料には塩基性染料が多い.酸性基を持たず,水溶液中ではカチオン性の染料イオンとなる.芳香族環に置換した広義のアミノ基(-NH2,-NHR,-NR2)が塩酸などの酸性分と塩をつくっており,一般式はD-NH3+Cl-で示される.また,アクリル系合成繊維によく染まり,日光堅ろう度も高いものが開発され,カチオン染料と称される. C.I.Basic Blue 9
 (Methylene Blue)
 C16H18N3S+Cl-
媒染染料  媒染染料は繊維にほとんど染着性をもっていないため,繊維(一般に動植物繊維)に予め,Cr,Al,Fe,Snなどの金属水酸化物や酸化物を固着させ(この操作を媒染という),次にこれを媒染染料溶液に浸して金属と染料との有色の不溶性錯塩を生成させることによって染色の目的を達するものである.媒染剤の種類によって異なる色調になり,多色性染料とよぶ場合もある.堅ろう度は良好であるが,染色法が複雑であるため漸減の傾向にある.天然染料はほとんど媒染染料であり,現在でも草木染めなどと称して用いられている.
 媒染剤の金属には有害なものもあり,取り扱いに注意が必要である.
C.I.Mordant Red 11
 (Alizarine)
 C14H8O4
酸性媒染染料  酸性染料と媒染染料の両方の性質をもっている.酸性浴で動物性繊維,ナイロン,アクリル等によく染着し,金属媒染を施したものにも染まる.媒染剤として大部分クロム塩,クロム酸塩が使用されるため,別名クロム染料(Chrome dye)ともいう.また,染めた後に金属塩で処理することもでき,これを金属塩後処理法という.一般に堅ろう度の高いものが得られるため,特に羊毛,絹の染色に多く使用される. C.I.Mordant Black 3
 C20H13N2NaO5S
建染染料

(バット染料)

 建染染料は水に不(難)溶で,そのままでは染色しにくいが,その分子構造中に特有のカルボニル基をハイドロなどの還元剤で還元する(これを「建てる」という)とアルカリ水溶液に可溶となる(これをLeuco化合物という).この中に繊維を浸して染めた後,空気酸化し,元の染料として発色させる.日光,水洗,洗濯,酸,アルカリに極めて堅ろうで色調も美しく,高級染料とされる(特に木綿に用いる).構造的にはインジゴ系とアントラキノン系の2つに大別される.中でも選択された堅ろう品種はインダンスレン染料またはスレン染料として多用される. C.I.Vat Blue 1
 (Indigo)
 C16H10N2O2
分散染料  分散染料は水に不(難)溶であるが,分散剤(界面活性剤)によって水に微粒子状分散させた状態で染色する.初めアセテート繊維を主な対称として開発されたためアセテート染料とも呼ばれたが,現在ではナイロン,ポリエステルなどの種々の合成繊維用のものが製造され広く用いられている.一般に分子量は比較的小さく,アゾ系,アントラキノン系のものが大部分を占める.昇華やガス退色などの欠点があり,いろいろな改良法が考案されている. C.I.Disperse Yellow 7
 C19H16N4O
C.I.Disperse Orange 3
 C12H10N4O2
C.I.Disperse Red 17
 C17H20N4O4
C.I.Disperse Violet 1
 (1,4-diaminoanthraquinone)
 C14H10N2O2
反応染料  反応染料は繊維と共有結合によって染着するため,水洗,洗濯,摩擦等に対して極めて堅ろうで,日光に対しても堅ろうである.初めはセルロース系繊維用の染料として現われたが,羊毛,絹にも応用され,ナイロン用のものも開発された.プロシオン染料,レマゾール染料が有名である. C.I.Reactive Red 1
 C19H9N6Na3O10S3Cl2
蛍光増白染料  蛍光増白染料・蛍光増白剤は衣類や紙を白く見せるためのもので,紫外線を吸収してそれより波長の長い青紫色の光を発する性質を持っている.黄ばんだ繊維等は,青紫色の光を吸収する色素のために黄色みに見えるので,その分の光を補うことで白く見せるのである.合成洗剤にも配合されている場合がある.
 蛍光増白染料は,各繊維に適したものが多数開発されており,構造的にはセルロース繊維用(直接染料型)の大部分を占めるジアミノスチルベン系が最も多く,他にイミダゾール系,クマリン系,ナフタルイミド系などがある.右のフルオレッセントブライトナー162はナフタルイミド系で,合成繊維用として分散染料と同じような方法で処理される.
C.I. Fluorescent Brightener 162
 C14H11NO3


印の組み合わせについては結合の模式図を参照可能.

セルロース−直接染料 | 毛−塩基性染料 | ナイロン−酸性染料 | ポリエステル−分散染料 | セルロース−反応染料



参考 染料 Reactive Red 1 を含むPDBデータ(PDB部分データリスト1i3uで画像作成)
オリジナルの1i3u;他にRR6含む1qd0,核染色用蛍光色素Hoechst 33258含む264d参照



「生活環境化学の部屋」ホームページ「分子の形と性質」学習帳