《 2006/07/21公開;筆者Webサイト開設10周年の10日前に 》
The rapid spread of the Internet has made it an increasingly important means for people to obtain information pertaining to science and technology. However,as there are instances where some information on the Web is unreliable,plus there is excessive duplication,plagiarism and false information,many difficulties arise in learning how to fully utilize the Internet. The advantage of the Internet,which unlike most other media may be accessed at any time,may become a liability due to the distribution of erroneous information. It has thus become more important than ever to cooperate to improve the information available through the transmission of high-quality data by experts and by guiding users to easily find helpful information.1. はじめに
In this document,an analysis of the positioning of information on the Internet is undertaken to bring about a "secure and safe life" based on Honma's more than six years' experience in the management of Web pages. The aim is to ensure the effective distribution of information on various environmental issues,such as environmental hormones (endocrine disrupting chemicals).
keywords: Internet,Web pages,Environmental problems,Science communication,Chemical education
2.3 牛海綿状脳症(狂牛病)など最近のコンテンツから
3. おわりに
図1 『化学物質過敏症情報』16)からリンクされている,原因とされる化合物の分子を参照できるのページの画面例.分子モデル表示プラグイン14)により,防蟻剤クロルピリホスの親油ポテンシャルを表示した場合.
2001年9月11日の米国同時多発テロ事件とそれに続いて起きた炭疽菌事件や2003年1月のロンドンでのリシン所持事件などによるNBCテロへの脅威,そしてやはり2001年9月に国内で始めて牛海綿状脳症の牛が確認されたことに端を発する一連の事件による食品の安全性に対する信頼の喪失.専門家の間ではある程度予測されていたそれらの事態が続けざまに起こったことにより,自己責任で情報を入手して種々のリスク19,20,21)を回避する必要性が一気に浮上し,ここでも様々な局面においてインターネットの役割がクローズアップされてきている(例えば食品情報のトレーサビリティなど).
本間のサイト3)でも,牛海綿状脳症(BSE)22),炭疽菌23),耐性菌・院内感染24)など,必要に応じて新しいコンテンツを作成して公開してきている.
環境情報の流通を目的とした本間によるページ群のWebにおける位置付けを確認する意味で,BSE情報ページを中心にアクセス状況25)の一部を図表で示した.図2の2002年から半年間のアクセス解析(ミラー版を省く)では,平日の利用が多いという週ごとの変動や夏季休業中のアクセス低下があるが,各コンテンツともそれぞれに平均的な訪問数のあることが見て取れる.またこの期間のアクセス最大値となっているBSEページへのアクセス(239件)は,国内のBSE4頭目の確定診断発表に対応しており,多くの人がニュースに合わせてインターネット情報を活用していることがわかる.なお,5頭目では86件(夏季休業期間),6頭目185件,7頭目159件とピーク値はほぼ減少傾向にあり,何れもその翌日以降はほぼ平常値に戻ることから,この問題に対する関心が落ち着いてきたことが窺える.
図2 2002年4月1日から6ヶ月間の「生活環境化学の部屋」provider版のトップページ3)とコンテンツ例22,24,30,31)へのアクセス状況.アクセス最大値はBSE4頭目の確定診断発表に対応.
次に表1のリンク元解析例からは,検索サイトのYahooニュース26)やBSEの関連公的機関である動物衛生研究所のページ27)に掲載され,Google28,29)の関連語検索でも上位にランクされたこと(2003年1月30日,“狂牛病”検索では約195,000件中18位)が利用者数の増加に繋がっていることがわかり,Web情報を有効に発信するには様々なサイト間の有機的な連携が不可欠であることが明らかになった.さらに,検索サイトで自作情報を上位に表示させるためには,最近話題になっているSEO (Search Engine Optimization)の発想を援用することも考えられる.
また,図2にはプリオンを知る上で基本となるタンパク質の高次構造の基本なども学べる分子の教材集30)や5月に公開を開始した抗がん剤に関するページ31)の集計も示したが,BSEページからもリンクしてあるにも拘らず明白な利用者数の増加は見られなかった.後者については新コンテンツの認知度の低さが第一の原因であろうが,BSEのリスクと発がんリスクとを比較すれば32),情報に対するニーズに偏りがあると言う見方も可能である.このような傾向は時事問題ではしばしば見られ,前出のDowns説や科学ジャーナリズムのあり方とも考え合わせていく必要がある.あるいは,関心の高い問題が起こったときにこそ,真に問題とすべき情報に多数を誘導していくことも可能と考えられ(guiding),その際にはコンテンツ作者に高度なWebデザインの技術も要求されよう.
■:外部リンク,■:サイト内リンク,他は検索エンジンから.
順位
リンク元
アクセス数
割合 / %
1
Yahoo! ニュース/BSE(牛海綿状脳症)
1654
39.3
2
動物衛生研究所/牛海綿状脳症(BSE)のページ
353
8.4
3
HP/トップ
168
4.0
4
検索/goo/「狂牛病」
143
3.4
5
検索/yahoo/「狂牛病」
77
1.8
5
検索/yahoo/「プリオン」
77
1.8
7
検索/google/「狂牛病」
71
1.7
8
検索/google/「プリオン」
66
1.6
9
Useful INOUE Home page
50
1.2
9
検索/goo/「プリオン」
50
1.2
11
検索/google/「狂牛病について」
45
1.1
12
検索/biglobe/「狂牛病」
24
0.6
13
検索/biglobe/(検索語不明)
21
0.5
13
検索/nifty/「狂牛病」
21
0.5
15
有機農業・環境問題のホームページ/狂牛病LINK集
15
0.4
16
HP/タンパク質の高次構造(α-ヘリックスとβ鎖)
14
0.3
16
検索/yahoo/「プリオン病」
14
0.3
18
検索/yahoo/「狂牛病 画像」
12
0.3
19
Jedline和英辞書(医歯薬篇)
11
0.3
20
検索/nifty/「プリオン」
10
0.2
その他
1310
31.1
計
4206
100
科学情報の伝達という意味で不可欠なものとなったインターネットを利用した本間による実践について,いくらかの分析と考察を加えた.利用者からの多様な反応やアクセス解析という手段が採用でき,それをフィードバックしてコンテンツを更新できるという意味でもインターネットは斬新なツールであると同時に,日々の積み重ねがものをいう分野でもある.他のメディアとの融合や比較なども視野に入れ,今後の新技術も取り入れながらなされるであろう今後の更なる実践とその解析に期待するものである.
時々刻々増加・更新・消失が止むことのないWeb情報を1996年以降集積し続けているInternet Archive33)や諸外国の国立図書館などに倣って34),2002年から国立国会図書館でもネットワーク系電子情報を印刷物と同様に収録しようとする『ネットワーク系電子情報に関するプロジェクト』35)が企画され.Web上のデータベースへリンクを張る「データベース・ナビゲーション・サービス(Dnavi)」36)とWebサイトや電子雑誌を収集・保存する『インターネット資源選択的蓄積実験事業(WARP)』37)が開始された.Dnaviには本間運営の分子データ集30)など数件が収載されたほか,自動収集のInternet Archiveには過去のバージョンも保存されている.このような動きも踏まえ,社会におけるWeb情報の位置付けについても引き続き考察を加えて行きたい.
参考文献・Webページ
1) たとえば,中山茂,『情報技術 ─市民運動と資本主義社会との関係』,科学技術社会論研究,第1号,pp.164-170(2002). ※第3章「マスコミに取って代わるか」参照.
2) たとえば,戸田清,『環境問題』,科学技術社会論研究,第1号,pp.158-163(2002).
3) 本間善夫,Webサイト「生活環境化学の部屋」,http://www.ecosci.jp/. ※同サイトに関する過去の学会発表例としては,本間善夫,『化学教育と環境情報流通のためのホームページ公開と活用』,日本化学会第78春季年会講演予稿集I,p.638.これは同年会の特別企画「インターネットと化学教育」における招待講演である.
4) 本間善夫,Webページ『環境ホルモン情報』,http://www.ecosci.jp/env/eh_home.html.
5) 本間善夫,『インターネットにおける環境情報の流通 −"環境ホルモン"問題を例に−』,サイエンスネット,第5号,pp.13-16,数研出版(1999).
6) 最近の公表資料例としては,“GLOBAL ASSESSMENT OF THE STATE-OF-THE-SCIENCE OF ENDOCRINE DISRUPTORS”,WHO(2002),http://www.who.int/pcs/emerg_site/edc/global_edc_TOC.htm.
7) 石弘之 編,「環境学の技法」, p.66,東京大学出版会(2002).
8) 西村肇・岡本達明,「水俣病の科学」,日本評論社(2001). ※2006年に増補版発刊.
9) 朝日新聞,『魚などの微量水銀、胎児への影響を初調査へ 環境省』,2002年8月20日.
10) 日本化学会,『環境憲章'99』,http://www.chemistry.or.jp/news/envcode99.html.
11) 日本化学会,『環境・安全インフォメーション』,http://www.csj.jp/es/.
12) 茅幸二ほか,「化学と社会」,岩波書店(2001).
13) 矢野直明,「インターネット術語集II」,岩波書店(2002).
14) MDL,Chime Plug-in,http://www.mdlchime.com/chime/. ※2006年以降はJavaベースの分子ビューアJmolも活用.
15) Web公開分子データと未公開データを付録CD-ROMに収録して書籍化している;本間善夫・川端潤,「パソコンで見る動く分子事典」,講談社(1999).
16) 本間善夫,Webページ『化学物質過敏症情報』,http://www.ecosci.jp/env2/mcs.html.
17) 本間宛て私信メール,2002年6月10日付.文面から被害者と周囲の深刻さと,化合物の分子モデルを掲載するというコンテンツ作成方針(iii)の有効性などが伝わってくる.
18) 本間善夫,「2時間即決 環境問題」,数研出版(2000);連動Webページは,http://www.ecosci.jp/envbook/.
19) 日本リスク研究学会 編,「リスク学事典」,TBSブリタニカ(2000).
20) 吉川肇子,「リスク・コミュニケーション 相互理解とよりよい意思決定をめざして」,福村出版(1999).
21) 雑誌特集『環境・健康とリスク ─何が課題か』,科学,2002年10月号,pp.981-1042,岩波書店.
22) 本間善夫,Webページ『BSE(狂牛病)とプリオン/牛海綿状脳症(BSE)』,http://www.ecosci.jp/chem8/prion.html.
23) 本間善夫,Webページ『炭そ(炭疽)菌/NBCテロ』,http://www.ecosci.jp/chem8/anthrax.html.
24) 本間善夫,Webページ『抗生物質・抗菌剤/耐性菌/院内感染』,http://www.ecosci.jp/chem8/antibiotic.html.なお,2003年から設けられる高校「理科総合A」の指導要領(1999年12月,文部省〔当時〕)では,『生物のつくる物質』を取り上げることになっており,授業に抗生物質が出てくる可能性も大きい.
25) 2002年3月時点の詳細は,本間善夫,Webページ『「安全な生活」のための情報発信実践から』,http://www.ecosci.jp/web/access200101.html.
26) Yahoo Japan,ニュース『BSE(牛海綿状脳症)』,http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/world/bovine_spongiform_encephalopathy/.
27) 動物衛生研究所,『牛海綿状脳症(BSE)のページ』,http://niah.naro.affrc.go.jp/disease/bse/bse-s.html.
28) Google,Google日本語版,http://www.google.com/intl/ja/.
29) Googleに関連する解説例としては,馬場肇,『Google の秘密 - PageRank 徹底解説』,http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~baba/wais/pagerank.html.
30) 本間善夫: Webページ『分子の教材データベース』,Chime/Jmol版.
31) 本間善夫,Webページ『話題の制がん剤・抗がん剤』,http://www.ecosci.jp/chem8/fit14.html.
32) 例えば以下の書籍の推計では,国内でBSEの発生が100頭になったとしてvCJDによる死者数は0.004〜6人とされる一方,がんの場合は肺がんだけで年間死者数は約5万人に達している;池田正行,「食のリスクを問いなおす −BSEパニックの真実」,筑摩書房(2002).
33) Internet Archive,“Wayback Machine”,http://webdev.archive.org/.収録Webページ数は100億を超える.
34) たとえば,国立国会図書館,『「ウェブ・アーカイビング関連リンク集』,http://www.ndl.go.jp/jp/information/links.html を参照.
35) 国立国会図書館,『ネットワーク系電子情報に関するプロジェクト』,http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/elib_project_nw.html.
36) 国立国会図書館,『データベース・ナビゲーション・サービス(Dnavi)』,http://dnavi.ndl.go.jp/.
37) 国立国会図書館,『インターネット資源選択的蓄積実験事業(WARP)』,http://warp.ndl.go.jp/. ※2006/07/10の本格事業化により全文検索が可能になったものの,集積されているのは公的機関のコンテンツや電子論文にとどまっている.たとえば,上掲『牛海綿状脳症(BSE)』ページ22)へリンクしている動物衛生研究所『牛海綿状脳症(BSE)のページ』27)のWARPサーバ保存データ例2006/05/26収集版(不定期に同じページを収集)があるが,WARP収録サイト以外へのリンクは外部のオリジナルページになってしまっており,それが消失・URL変更したときは接続不可能になる.WARPに言及した筆者ブログ記事(1,2)も参照.
◆本論文公開後の追記
●最近の参考文献・Webページ