“予防原則”に言及したNHK 「謎のミツバチ大量死 EU農薬規制の波紋」(2013/09/12放送)についてはこちら(ネオニコチノイド系農薬関連)をご参照ください。 アスベスト(石綿)関連のニュース等はこちら アスベスト問題について学会発表の資料を一部転載 |
2005/06/12は,新潟水俣病が公式に確認されてから40年目にあたる(ブログに記載)。水俣病は合成化学物質が多くの人間に甚大な被害を及ぼすという環境問題の発端の一つとも言えるが,その後も多くの化学物質が生命の世界に様々な影響を及ぼし続けている。
新規物質が世に出た時点での科学の水準では,その有害性や環境中での動態などを正確に予測できないこともあり得ることから,「予防原則」という考え方が注目されている。先日,その解説書が出版されたので,掲載記事の一部を引用して紹介としたい。水俣病のメチル水銀やや切迫流産防止薬などとして用いられたDES(ジエチルスチルベストロール),ポリ塩化ビニルの可塑剤DEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)などの化学物質だけでなく,遺伝子組み換え,BSE,放射線,電磁波など,過去と現在の幅広い問題を例示しながら,国内外における予防原則適用の現況を詳述している。
ここでは,服用者とそのこども達に下表のような影響を及ぼしてしまったDESを含んだタンパク質のデータを参照できるようにした。連載31で取り上げた4種類のエストロゲン受容体のうちの一つである。シェーンハイマーの動的平衡の模式アニメで示したように,生体内高分子の世界に様々な天然化合物,合成化合物が流れ込んでいる現実をイメージし続けることは大事なことだと考えている。
DES(ジエチルスチルベストロール)による影響;文献[1]p.142より(綿貫,1999)
1. 確定されている事実 | 膣の明細胞がん(DES娘) |
膣上皮の変化(DES娘) | |
生殖器の奇形(DES娘) | |
早産(DES娘) | |
乳がん(DES母) | |
2. たぶん多いであろう | 子宮外妊娠(DES娘) |
不妊(DES娘) | |
生殖器の異常(DES息子) | |
3. 統計的に可能性がある | 頸部過形成上皮内がん(DES娘) |
自己免疫疾患(甲状腺機能異常も含む) | |
不妊(DES息子) | |
精巣がん(DES息子) | |
4. 理論的に考え得る | 乳がん(DES娘) |
心理的な性の異常(DES娘,DES息子) | |
前立腺肥大,前立腺がん(DES息子) |
DESを含む3ERDのPDBsumデータ集で作成したアニメ作例
ビスフェノールAが結合したエストロゲン受容体γより
DESを含む3ERDのSITE(PDBsum)(左)とSITE(右)の同時表示のアニメーション
[TOPIC] 以下の論文・資料でDESについて言及されています。
- 前田紘輔・Alexander SCHUG・渡邉博文・福澤薫・望月祐志・中野達也・田中成典,『エストロゲン受容体のアミノ酸変異によるエストラジオール結合エネルギーの変化』,Journal of Computer Chemistry, Japan, 6(1),33(2007)/PDF版
“エストラジオール(Estradiol ; EST,Figure 1)は女性ホルモンであるエストロゲンの一種である。この受容体に結合するリガンドは複数存在することが確認されている。本来結合するはずのESTなど天然のエストロゲンに加えて、骨粗鬆症治療薬であるラロキシフェンや、ジエチルスチルベステロールなどが結合する。
これら以外にも、エストロゲンに似た化学物質として受容体に結合してしまい人体に悪影響を及ぼす環境ホルモン(内分泌撹乱物質)があり、問題視されている”
参考:PDBデータのLigand結合部位(Chime版)による1qkuChain AのSITE部分(リガンドは17β-エストラジオール)
※上掲論文 Figure 3 に対応するが,SITEは異なり(画像はPDBデータに記載のもの),水素も付加されていない。
※参考:同論文に言及したブログ記事- 第18回内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会議事録(厚生労働省,2006/03/14)
例:“神経幹細胞のin vitro系における解析で、エストラジオール、ビスフェノールA、ノニルフェノール、DES等が、この神経幹細胞に対してさまざまな影響を低濃度で及ぼすというデータを得ておりまして、vitro とvivoをつなげていきたいと考えております”
●その他の予防原則・科学コミュニケーション関連資料 ※他分野を含めた読書記録もご参照ください
※キーワード例(リンクは本サイト内コンテンツ例):生物哲学,「生物体とは何か」,カンブリア,シュレディンガー『生命とは何か』,フーコー,「ねこに未来はない」,『脳の話』,「前頭葉論」,アドラー「劣等器官論」,養老孟司『唯脳論』,赤塚不二夫,死亡率,ATP,水素結合の数,自然淘汰,「生存のストラテジー」,モネラ世界,DNA,シアノバクテリア,プロティスタ,ミトコンドリア,ドゥルーズ,感染,進化,「死すべきもの」,有性性,エロス,タナトス,ウイルス,ファージ,有性生殖,生殖細胞,「利他的な存在」,オペロン遺伝子,ゲノム解析,再生医療,誘導物質,濃度勾配,アポトーシス,発生プログラム,サリドマイド,癌,クローン,HIV,ドーキンス,「遺伝子の乗物」,優性思想,社会生物学〔論争〕,ラマルク,ミーム,ダーウィン,グールド,性染色体,「Yの真実」,「喜劇としての人間」,ミーカー,ローレンツ,ダンテ『神曲』,淘汰,分子生物学,オパーリン,モノー,マルクス,鳥インフルエンザ,ポテンシャル,コード変換,RNA,ハイパーサイクル,……
p.94のアクチヴィン(アクチビン,activin)に関連して:アクチビンAの例2arv
(トピックス分子に掲載)
p.39掲載のグラフ
◎関連資料から引用(まだ環境省から正式には公開されていないため;異なっている可能性あり):ExTEND2005 における詳細調査の検討について(H19 第1回 ExTEND2005 作用・影響評価検討部会,2007/11/06)[PDF] p.2 → 分子モデル一覧(分子群の場合はその一例)
“15物質とその主な用途は以下のとおり。
エストロン(女性ホルモンの代謝物質)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩(洗剤)、2,4,6-トリブロモフェノール(樹脂添加剤)、2,4-トルエンジアミン(ポリウレタン合成原料)、o-ジクロロベンゼン(失効した殺虫剤)、p-ジクロロベンゼン(未登録の防虫剤)、N,N'-ジメチルホルムアミド(人工皮革)、ヒドラジン(ロケット燃料)、ペルフルオロオクタン酸(フッ素ポリマー製造時の助剤)、フェンチオン(農薬(殺虫剤))、トリフルラリン(農薬(除草剤))、カルバリル(NAC)(農薬(殺虫剤))、トキサフェン(未登録の殺虫剤、POPs)、ビンクロゾリン(失効した殺菌剤)及びメトキシクロル(失効した殺虫剤)”
調査対象物質例のエストロン(分子モデル一覧ページに15化合物の有機概念図掲載)
※環境ホルモン情報も参照
参考:メタミドホス(空間充填表示)を含むマウスのアセチルコリンエステラーゼ例2jge
フェリチンH鎖タンパク質例1fhaのPQSによる24量体(Molecule of the Monthも参照)
アリムタ(正式名称はペメトレキセド〔pemetrexed〕,実際は 7水塩)→ 話題の制がん剤・抗がん剤
参考:カルポニン(calponin)関連PDBデータ例1h67のModel 1
▼番組出演者による資料例またはその所属団体など
アスベスト疾患センター設置病院(22病院:*はブロックセンター7病院):*岩見沢,釧路,*東北,千葉,東京,関東,*横浜,新潟,富山,浜松,中部,*旭,関西,*神戸,和歌山,*岡山,中国,山口,香川,九州,*長崎,熊本
特殊健診、診断・治療実施可能:美唄労災病院,岩見沢労災病院,東北労災病院,福島労災病院,珪肺労災病院,千葉労災病院,東京労災病院,関東労災病院,横浜労災病院,燕労災病院,新潟労災病院,富山労災病院,浜松労災病院,中部労災病院,旭労災病院,関西労災病院,神戸労災病院,和歌山労災病院,岡山労災病院,中国労災病院,香川労災病院,九州労災病院,門司労災病院,長崎労災病院,熊本労災病院,吉備高原医療リハビリテーションセンター
特殊健診のみ実施可能:釧路労災病院,青森労災病院,岩手労災病院,大阪労災病院,山口労災病院,筑豊労災病院
■14の歴史上の出来事(2001年 欧州環境庁の予防原則報告書より;文献[1]p.163→筆者サイト資料)
1) 漁業の崩壊:乱獲
2) 放射線:早期警告と影響の遅れ
3) ベンゼン:欧米の労働基準設定における歴史的認識
4) アスベスト:神秘的な力から邪悪な鉱物へ
5) ポリ塩化ビフェニル(PCBs)と予防原則
6) ハロゲン含有炭素化合物(ハロカーボン):オゾン層と予防原則
7) ジエチルスチルベストロール(DES)物語:胎内曝露の長期影響(妊婦に対するDES使用の認可)
8) 成長促進抗生物質:常識への抵抗
9) 二酸化硫黄:人の肺の保護から遠く離れた湖の回復まで
10) ガソリンの添加剤として使用される鉛代替品メチル-t-ブチルエーテル(MTBE)
11) 五大湖の化学物質汚染における予防原則と早期警告
12) トリブチルスズ(TBT)防汚剤:船、巻貝類、インポセックスの物語
13) 成長促進ホルモン剤:予防原則あるいは政治的リスクアセスメント
14) 「牛海綿状脳症(BSE)」1980年代〜2000年:繰り返しの「安全の保証(安心)」がどのようにして「予防」をだめにしたか
※p.178には,9.11テロでWTCセンタービルが崩れたのは,建築中にアスベスト使用が禁止されて上層階ではアスベストが使われなかったためという話が出ている一方,以下ではそのことが倒壊後のアスベスト汚染を防いだという見方が出ています。
※p.179に欧米で有効とされている抗がん剤アムリタ(一般名:ペメトレキセド,pemetrexed;アリムタ - Wikipedia参照)に言及(国内では臨床治験中)
※他の参考Chimeデータ:タルク(滑石)Mg3(OH)2Si4O10(Inorganic Chemistry 3.0 - Formula Index)
Q&Aに掲載の写真例