参考文献・Webページ | トピックス(※イレッサ関連)
2002/02/02のNHK総合テレビ,『がん治療・副作用はなくせるか 〜アメリカ国立がん研究所の挑戦〜』において,新しい視点でのがん治療薬がいくつか取り上げられました。
その中の,慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬剤イマチニブ(商品名:グリベック)については,
さらに,2002/04/08-09にはNHK教育テレビで,『末期がんでもあきらめない』(第1回:患者が選んだ抗がん剤治療,第2回:がんとの共存・免疫療法)が放映されました。
また,がん治療において,患者の痛みを和らげることが重要な課題となっており,モルヒネ(モルフィン)などの鎮痛薬を上手に使うことが求められています。以下の文献では,新しく開発された鎮痛薬を含めてわかりやすく解説されており,さらにそれらの薬剤にがん細胞の増殖抑制効果(制がん作用)が認められつつあることにも言及しています。
モルヒネ誘導体 | 細胞株(IC50 / μM) | |||
---|---|---|---|---|
Neuroblastoma | PC-9 | U251 | HL-60 | |
KT-90 | 42 | 45 | 52 | 70 |
KT-95 | 102 | 68 | 200 | 70 |
naloxone | 150 | 500 | 170 | 500 |
morphine | 3,300 | 4,800 | 3,400 | 2,700 |
M-6-G*1 | 47 | 70 | − | − |
M-3-G*2 | 3,900 | 5,200 | − | − |
以下では,NHKの番組や文献[1]で紹介された薬剤と,上表にあげたモルヒネ関連化合物の一部の分子モデルを示します。
表2 上記化合物の有機概念図のI・Oとlog Pの計算
【TOPIC:肺がん治療薬ゲフィチニブ(gefitinib;商品名イレッサ Iressa)に関する情報】
log Pcalc = 0.01071 O - 0.0054285 I + 1.436322 [引用]
※()は,塩酸モルヒネ・塩酸ナロキソンなど塩酸塩を想定してアミン部分をアンモニウム塩として計算した場合
* Interactive LOGKOW Demoより
分類
薬剤名
分子式
I
O
log P*
log Pcalc
モルヒネ誘導体
モルヒネ(morphine)
C17H19NO3
347(677)
340
0.89
3.194(1.403)
ナロキソン(naloxone)
C19H21NO4
412(742)
380
2.09
3.270(1.478)
KT-90
C24H27NO4S
257(587)
540
5.825(4.033)
KT-95
C24H27NO5S
330(660)
540
5.428(3.637)
M-6-G
C23H27NO9
657(987)
460
2.796(1.005)
M-3-G
C23H27NO9
747(1077)
460
2.308(0.516)
話題の制がん剤
メルファラン(melphalan)
C13H18Cl2N2O2
325
340
0.385
3.313
イマチニブ(imatinib)
C29H33N7O
680
580
3.957
ゲルダナマイシン(geldanamycin)
C29H40N2O9
675
580
3.984
その他の制がん剤
5-FU(5-Fluorouracil)
C4H3FN2O2
287
85
-0.89
0.789
アドリアマイシン(adriamycin)/ドキソルビシン(doxorubicin)
C27H29NO11
950
540
1.27
2.063
カルモフール(carmofur)
C11H16FN3O3
417
225
2.63
1.582
タキソール(taxol)
C47H51NO14
927
940
6.472
タモキシフェン(tamoxifen)
C26H29NO
137
520
6.262
ドキシフルリジン(doxifluridine)
C9H11FN2O5
517
185
0.611
ブリオスタチン3(bryostatin 3)
C44H62O16
850
880
6.247
マイトマイシンC(mitomycin C)
C15H18N4O5
614
300
-0.40
1.316
メソトレキセート(methotrexate)
C20H22N8O5
1085
400
-1.85
-0.170
図1 モルヒネ誘導体と制がん剤の有機概念図
【補足1】化学抗癌剤について有機概念図を適用した文献例
参考図1 化学抗癌剤とキノン類の有機概念図上での分布(画像クリックで拡大)
◎データ引用:甲田善生,「有機概念図 ―基礎と応用―」,p.164,三共出版(1984)《絶版》
◎オリジナル文献:藤井喜一郎,医薬ジャーナル,15,pp.1419-1424(1979)
(著者と出版社のご了解を得て転載させていただきました。薬剤は原著発表時に用いられていたものですのでご了承ください)
※有機概念図について: 『Excel用有機概念図計算シート』の使用方法 | 分子と分子の相互作用(QSARと有機概念図から)
※Iとlog Pcalcはアンモニウム塩で計算,IC50は50%阻害濃度(単位:μM)
モルヒネ誘導体
分子式
I
O
log P
log Pcalc
log ( 1/IC50 )
Neuroblastoma
PC-9
U251
HL-60
モルヒネ(morphine)
C17H19NO3
677
340
0.89
1.403
-3.52
-3.68
-3.53
-3.43
ナロキソン(naloxone)
C19H21NO4
742
380
2.09
1.478
-2.18
-2.70
-2.23
-2.70
KT-90
C24H27NO4S
587
540
4.033
-1.62
-1.65
-1.72
-1.85
KT-95
C24H27NO5S
660
540
3.637
-2.01
-1.83
-2.30
-1.85
M-6-G
C23H27NO9
987
460
1.005
-1.67
-1.85
M-3-G
C23H27NO9
1077
460
0.516
-3.59
-3.72
図2 モルヒネ誘導体のlog Pとlog ( 1/IC50 )の関係
【補足2】発がん・制がんとDNA
参考図2 薬剤分子のがん細胞DNAへのインターカレーションによる制がん作用の例(adriamycinの場合);PDBデータ/151Dから作成
※遺伝子DNA/4種類の塩基参照
《参考》DNAへの分子のインターカレーションは発がん機構においても重要!
【補足3】がん抑制遺伝子p53
参考図3 がん抑制遺伝子p53;PDBデータ/1TUPから作成
《参考》
参考文献・Webページ
▼追加・更新情報
※参考:p.202〜に記載のクロフィブレート(クロフィブラート,clofibrate;DNAに結合せず変異原性もないが,強い発がん性示す)
→ 発がん性化合物
セレコキシブ(celecoxib)
エリブリン(eribulin)
サルコシン(sarcosine)
イリノテカン(分子上掲)〔左〕とイリノテカンを含むPDBデータ例1u65(上記研究とは無関係)〔右〕
※参考:〔新しい抗癌剤シリーズ〕Topoisomerase阻害剤:塩酸イリノテカン(日本産科婦人科学会)[PDF]
ゲニステイン(ゲニスタイン,Chime分子);球棒表示部分がイソフラボン(Chime分子)骨格
※参考:「健康食品」の安全性・有効性情報のダイズ情報
〔左〕シトクロムP450StaP2z3uの全体構造(空間充填はクロモピロリン酸とヘムのFe,緑色はIへリックス;P450データ集参照)
〔右〕インドロカルバゾールの例インドカルバゾスタチン(indolocarbazostatin;分子上掲)
参考:実験に用いられた抗がん剤トラスツズマブ(トラツズマブ,商品名ハーセプチン)のデータ例1n8zのChain A・B(両鎖がHerceptin Fab)
ペメトレキセド(pemetrexed,Chime分子;実際は 7水塩)
※参考:話題の制がん剤・抗がん剤,アスベスト(石綿)問題
ドキソルビシン(doxorubicin,Chime分子)
参考:リツキシマブ関連PDBデータ例1l6x(糖タンパク質データ集にデータ転載)
参考:抗がん剤トラスツズマブ(トラツズマブ,商品名ハーセプチン)が結合したErbB受容体のPDBデータ例1n8z
▼以下関連情報
ZSTK474(分子モデル上掲)
※参考:他のPI3キナーゼ阻害剤を含むPDBデータ例 1e7u(wortmannin;別資料),1e7v(LY294002)
アメフラシ由来アプリロニンAとアクチンとの複合体構造1wua〔左〕とアプリロニンA〔右;C59H101N3O14,Chime分子例は上掲〕
用いられた色素のタラポルフィンナトリウム(talaporfin sodium;商品名 レザフィリン,Laserphyrin)C38H37N5O9・4Na(Chime分子)
※参考資料例:DRUG: D01985(KEGG),MLリソース:肺癌,明治製菓:プレスリリース
ボルテゾミブ(C19H25BN4O4,分子上掲;同分子を含むPDBデータ2f16は公開準備中)
エピルビシン(分子上掲)
〔左〕17-AAG(geldanamycin誘導体),〔右〕参考データとしてgeldanamycin結合Hsp90タンパク質の例(1yet)
※関連情報:抗癌剤の作用を解明(Nature,2003/09/25) …Hsp90タンパク質の働きを抑制する17-AAGの作用から説明
※参考:17-AAGを取り上げたNHK番組例
SU11248
参考:カドヘリンの例(PDBデータ1edhより),eProtS情報
オキサリプラチン(oxaliplatin)の分子構造とその誘導分子を含むPDBデータ例(1PG9)
DHA(ドコサヘキサエン酸;動く分子事典CD収録分子) → 参考:有機化合物の名前の基礎
D-アロース(左:六員環式,右:鎖式)
ビタミンK2(メナキノン)の構造式とその分子モデル例(menaquinone-6) → 水溶性ビタミンと脂溶性ビタミン
参考:成人T細胞白血病リンパ腫に対する抗がん剤の例 → Chime分子,話題の抗がん剤
(ビンクリスチン,エンドキサン/シクロホスファミド,アドリアマイシン,メソトレキセ−ト,エトポシド;国立がんセンター資料より)
左からテガフール,ウラシル,テガフールから生成する薬効成分5-FUを含むPDBデータ例1h7xのSITE部分
※参考(テガフール・ウラシル・5-FUについて):「薬物代謝学 第2版」(東京化学同人),p.130
シスプラチン(中央;ピンクがPt)が結合したDNAの例1A84
ラパマイシン(rapamycin;Chime分子)とそれを含む参考PDBデータ例1PBK
エピガロカテキンガレート(EGCG;「動く分子事典」p.94)とエピガロカテキン(EGC)を含む参考のPDBデータ例1JNQ
有効成分とされるタンゲレチン(tangeretin;Chime分子)※インターフェロンが上掲のがん抑制遺伝子p53の働きを高めること,インターフェロンと少量の抗がん剤5-FU併用でヒトの肝臓がん細胞が死滅することを確認
※関連PDBデータ例:2FKE(FK-506-binding proteinの例;LigandはFK506〈Ascomycin〉),1F95(Bcl2関連タンパク質例)
※アポトーシスやその制御役として代表的なタンパク質Bcl2に関するコンテンツ例:1,2(英文)
※タクロリムス分子とトピック例
※Googleによる“FKBP38”検索結果 …FKBPはFK-506-binding proteinの略※同じ研究者による過去の結果例:多様な食物繊維とり便秘や大腸がん予防(読売,1996/09/30)
※有効成分はポリフェノールの一種のプロシアニジン(procyanidin)
※“がん及びその他の毒性影響に関する最近の知見”など → ダイオキシンについては,ダイオキシン類の分子特性と毒性等価係数参照
※有効成分名はスルフォラファン(sulforaphane)
スルフォラファン(sulforaphane)とL-スルフォラファン(結合型)が結合したPDBsumデータ(抗がん剤開発と標的タンパク質)
参考:イレッサを含むPDBデータ例2ito〔左〕とそのSITE部分〔右〕(他に2itz)
▼以下続報
※イレッサ:「延命効果なし」米FDAが回収も検討(毎日,2004/12/25)
「分子の形と性質」学習帳 | 「生活環境化学の部屋」ホームページ