◆ 「安全な生活」のための情報発信実践から ◆
= コンテンツのアクセス状況解析をもとに(2002/03集計) =

「生活環境化学の部屋」主宰  本間善夫

《 2002/04/01公開;2002/05/29一部更新 》
※外部のリンク資料は,削除やURL変更などで参照できなくなる場合もありますのでご了承ください.


1. はじめに
 過去の多くの問題を解決していくための輝かしかるべき21世紀の幕開けの年から,対米同時多発テロ事件とその後の炭疽菌事件をきっかけとした生物・化学兵器に対する脅威,そして私たちの食生活を震撼させた狂牛病のニュースなどにより,すっかり手垢のついた世紀になってしまった感がある。
 いたずらに「豊かな生活」(経済的な意味での)を求めるべき時代でなくなったことは,ある意味では歓迎すべきことかも知れないが,この地球の上に棲んでいる,人と人との関係やヒトと他の生物たちとの関係が,ある程度落ち着いたものになって欲しいと願う中(逆らうことのできない自然界の試練や,予期できない人為的な事件は避けられないとしても),多くの人々によって支えられている“信頼”という言葉自体が空疎になりつつあるのではないだろうか。個々人の自助努力による,「安全な生活」のための自己防衛的な活動を強いられていると言ってもいいのかも知れない。
 そのような状況の中で,本来は“豊かな”「知の共有」を実現するための役割を担っていたはずのインターネットも,次々と出現する新たな問題を前に,最低限の生存のための情報入手のツールとしての機能も,より強く求められているように思われる。

 本サイトでは冒頭に記した事件などを機に,「狂牛病とプリオン」「炭疽菌」などの新しいコンテンツを作成してWeb上に発信している。また,国内では1997年頃から注目されるようになり,現在でも調査・研究や多面的な考察が続けられている環境ホルモン(内分泌撹乱物質)問題についても,早くから「環境ホルモン情報」を発信し,更新を継続している。
 これらの問題は結論や対策が出しにくいものの例でもあり,関心を持った誰もが複雑な問題の本質を理解したり各自の行動を決定したりできるように,専門家や関係機関ばかりでなく様々な立場の人間によってインターネット上に有用な情報を提示しておくことが必要となっている。本サイトにおける掲載情報は以下に例示するような視点で,選択・作成されている。

 ここでは本「生活環境化学の部屋」サイトがWeb上で果たし続けている役割の一端を確認するために,データを置いているプロバイダが開始したアクセス分析サービス(有料)を利用して行なった上記コンテンツへのアクセス状況解析結果の一部を公開する。同サービスでは最大5コンテンツまでについて,アクセス数/リンク元URL/接続元ドメイン/訪問回数/訪問間隔/アクセスログ閲覧(最新アクセス100件まで)の各情報を参照でき,時間毎のトータルアクセス数のログのダウンロードも可能となっている。

図1 利用したアクセス分析サービスの分析結果表示画面例

 なお,本サイト開設の経緯などは過去にも公開し(記録1記録2参照),アクセス状況についてはミラーであるSINET版の分子データを中心に行なった例があるが(集計1集計2),今回はさらに詳細な分析を加えることが可能となった。ただし,2002/02/28時点のProvider版データファイル数は6,610(htm* が約1,400で他に,mol,pdb,gif,jpg,xls,lzh,zip,pdfを含めた総計),データ総容量は42,867キロバイトであり,本解析はその一部のコンテンツに関するものではあるが,他のコンテンツとの連関性もその中で若干窺い知ることができる。
 また,以下のリンク元URLの分析では,サーチエンジンの検索による訪問者が多いという側面があるので,参考のために利用者の多いGoogleでの関連主要キーワードについての検索結果を次に示す。

表1 Googleによる主要コンテンツ関連語の検索結果例
(2001/11/23実施;30位以内に入った自作コンテンツ)
キーワード  検索件数  表示順位(対象ページ)
分子 約397,000 18番目(パソコンで見る動く分子事典)
19番目(分子の形と性質学習帳)
環境化学 約6,650 3番目(トップページ*
環境ホルモン 約57,600 6番目(環境ホルモン情報)
7番目(環境ホルモンのリスト・旧版)
炭疽 約12,600 7番目(炭疽菌)
狂牛病 約200,000 17番目(狂牛病とプリオン)
*はSINET版,他はProvider版


2. アクセス状況の日変動


図2 2001/12/16-22のProvider版(P),SINET版(S)へのアクセス状況


 図2から,週末の土・日にアクセス数が減少する傾向が見られ,これは大学(教員・学生)や職場でのインターネット利用が通常平日に限られることなどと関連すると思われる。Provider版とSINET版へのアクセス数の差が大きいコンテンツもあり,これらは後出のデータのように,サーチエンジンで上位にランクされるもの,あるいは検索サイトのカテゴリやニュースに収録されているものが一方のみである場合,そちらからの利用者が多くなるためであろう。特に狂牛病情報や炭疽菌情報はProvider版が多くのサイトで取り上げられているので,アクセス数が際立って多くなっている。
 これ以降のデータはすべてProvider版に関するものである。


図3 2002年1月〜2月のアクセス状況


 図3では図2と同様,曜日による周期が見られるほか年始のアクセス数が全般に低いことがわかる。また長期的変動傾向としては,社会的な関心の増減に伴って漸増・斬減することが予測される。その意味で,1997年頃から関心が高まって現在に至っている環境ホルモン情報へのアクセス数と,上記データ集計の数か月前に問題が起こった狂牛病および炭疽菌情報へのアクセス数の違いは,様々な問題に対する関心の変動を見る上で興味深いものがあり,今後も集計を継続する必要を感じている。
 特異的にアクセス数が増加するのは,コンテンツに関連する問題で大きなニュースがあった場合にインターネットで検索するなどの行動が取られるためと推定できる。例えば,上図で最大値となった2002/01/23の狂牛病情報へのアクセスは,『雪印食品詰め替え事件』が起こったことと関連すると思われる。
 このように,Webコンテンツへのアクセス状況は人間の脳が示す興味の動向を反映したものと見ることができ,情報発信者はそのことも踏まえながらコンテンツの作成・更新が可能になりつつあることを示唆するものと考えることができる。


3. 各ページのリンク元の解析(2002/01/01-31)
 以下では,5コンテンツについて2002年1月のアクセス解析からリンク元URLの上位20位までを示し,若干の説明を付記する。
 サイト内における各コンテンツの位置付けによって,サーチエンジン,外部の相互リンク・勝手リンクサイト,サイト内メニュー的ページあるいは特定テーマページ,など来訪のきっかけになっているサイトやページが異なっていることなどがよくわかる。

 3.1. トップページ

順位 リンク元 アクセス数 割合 / %
1 HP/ホーム 1298 42.5
2 HP/ホーム〔ミラー〕 266 8.7
3 三浦さんちのホームページ/環境ホルモン問題について 72 2.3
4 Chem-Station/トップ 59 1.9
5 HP/環境ホルモン情報 53 1.7
6 検索/infoseek/「環境問題」 44 1.4
7 HP/高分子の融点とガラス転移点 30 0.9
8 検索/infoseek/「環境ホルモン」 24 0.7
9 HP/分子の学習帳 23 0.7
10 HP/狂牛病とプリオン 22 0.7
11 HP/まなびの部屋 18 0.5
12 HP/ダイオキシン100の知識〔共著書籍情報〕 17 0.5
12 環境goo/ディレクトリ5000/環境ホルモン 17 0.5
12 環境goo/ディレクトリ5000/シックハウス 17 0.5
15 Chem-Station/有機って面白いよね!! 16 0.5
16 HP/iモード化学 15 0.4
16 HP/アミノ酸 15 0.4
18 検索/goo/「環境」 14 0.4
19 検索/goo/「環境ホルモン」 12 0.3
20 HP/炭疽菌 11 0.3
その他   1009 34.2
  3052 100
:サイト内コンテンツから :他サイトから#1 :サーチエンジンから(「 」が検索語) :検索サイトのディレクトリ・ニュースから


 本サイトはトップページのほかに,Provider版とSINET版の振り分けのみを記載した“ホームページ”を設けているが,そこからのアクセスが1・2位を占めている。そのホームへどこから辿って来ているかについてはログを取得していない。
 3位の三浦貞則氏の環境ホルモンページはわかりやすい解説で定評があり,その内容の信頼性から掲載リンクが活用度が高い結果と思われる。これと関連して,8・12・19位に“環境ホルモン”をキーワードにした検索結果あるいは環境サイトリンク集からの来訪があり,予想以上に環境ホルモン問題に対する関心の高さが維持されていることが類推できる。これは同テーマが広く知られていく過程で,インターネットの役割が極めて大きかったこととも関係するであろう(例えば以下を参照;本間,『インターネットにおける環境情報の流通 −“環境ホルモン”問題を例に−』,数研出版ネットサイエンス5号,1999)。また,12位の「ダイオキシン100の知識」は,化学関係のフォーラムで多数の参加者がオンライン上で執筆・編集を行なって出版した書籍の情報ページであり,三浦氏と筆者も参加した企画である。
 次に特筆したいのは,次項の「分子の学習帳」へのリンク元としても頻出するChem-Stationであり,ここでは4・15位に登場している。同サイトは学生2名(本稿執筆時点)が運営している非常にアクティブな化学情報サイトであり,この結果から見ても同サイトのアクセス数は膨大なものであることが容易に推定できる。Web上での専門情報の発信という考える上で極めて重要な示唆があると考えている。
 サイト内コンテンツからは,中心コンテンツ「分子の学習帳」のほかに,今回の分析対象である狂牛病・炭疽菌情報という時事テーマが上位に現れ,インターネットユーザーが検索などで興味あるキーワードで個別コンテンツにアクセスし,その後当該サイトのトップページに回るという動線が垣間見える。
 15位の「iモード化学」は,本サイトのiモード版であり,携帯電話がインターネット接続端末として今後更に発展していくことであろうことを予感させるものがある。
 その他の1009件のうち795件は今回の分析では表示されなかった5件未満のリンク元の総計であり,他のキーワードによる検索や本サイトが掲載されているリンク集,利用者個人のブックマークなどから来訪したものと考えられる。

#1 2002/04/27に,「生活環境化学の部屋」関連サイトの視覚化資料を追加。


 3.2. 分子の学習帳

順位 リンク元 アクセス数 割合 / %
1 HP/トップ 235 22.7
2 HP/2001年度ノーベル化学賞・不斉触媒合成 192 18.5
3 Chem-Station/有機って面白いよね!! 28 2.7
4 HP/狂牛病とプリオン 28 2.7
5 HP/炭疽菌 27 2.6
6 HP/動く高分子事典 17 1.6
7 Chem-Station/Study 16 1.5
7 Chem-Station/有機化学のサイト 16 1.5
9 HP/まなびの部屋 14 1.3
10 HP/2000年度ノーベル化学賞・導電性ポリマー 13 1.2
11 HP/環境ホルモンとして疑われている化合物の例 10 0.9
12 HP/動く薬物事典 9 0.8
13 HP/化学トピック集 (2) 7 0.6
13 HP/分子は目には見えないけれど〔『理科教室』原稿〕 7 0.6
13 HP/モノはなぜ見える・レチナール,ビタミンA,カロチン 7 0.6
13 HP/ビスフェノールAとポリカーボネート 7 0.6
17 植物を材料としたDNA抽出実験/RasMolの使い方 6 0.5
17 HP/水,アンモニア,メタン,二酸化炭素 6 0.5
17 HP/基礎有機化学・海賊版1【導入】 6 0.5
17 HP/ChemscapeChimeマニュアル 6 0.5
その他   376 36.4
  1033 100
[注] のサイト内コンテンツの一部は,分子表示プラグインのChemscapeChimeが必要です.


 1位はトップページからであり,同ページのメニューの最初が「分子の学習帳」であることから辿ってくる割合が高いと思われる。
 2位のサイト内コンテンツ「2001年度ノーベル化学賞・不斉触媒合成」は時事的な要素もあって関心が高い上に,Yahoo! カテゴリ/“野依良治” や同ニュース/ノーベル賞(現在は削除)などで紹介されたコンテンツであることから,利用者が際立って多いものと推定されきる。10位にはやはりノーベル化学賞コンテンツの「2000年度ノーベル化学賞・導電性ポリマー」が入っている
 3・7位(2件)に前述のChem-Stationコンテンツからのアクセスがあり,有用なサイトとの相互リンクや情報交換の役割が大きいことがわかる。なお2002年1月には,同サイトと同様に学生(開設時)が運営を開始したport:3016(MOPACなど計算化学について解説)が登場し,今後国内でも学生が作成した専門サイトの存在意義が高まっていくことが予想され,期待したい。
 17位の植物を材料としたDNA抽出実験/RasMolの使い方は高校教員によるコンテンツであり,分子表示プラグインChemscapeChimeと関係の深い分子ソフトRasMolの解説ページである。利用者の多い標準的な英語版フリーウェアに関する日本語の情報サイトという点において,「分子の学習帳」との共通性がある。
 サイト内ページからのアクセスは,前項でも記載したように分析時に国内でも関心が高かった「狂牛病」,「炭疽菌」が4・5位に現れ,以下分子に関する基本的テーマや,環境ホルモン・高分子・薬物関連の化合物リストページ(これについては前出の旧集計も参照)などが並んでいる。
 17位の「基礎有機化学・海賊版1【導入】」は著名なおもしろ有機化学ワールドのコンテンツの海賊版であり,原作ページからも“別図”としてリンクされていることが原因と思われ,やはり相互リンクの有効性を示す例となっている。
 なお,高校や大学でのWeb利用講義の資料として「分子の学習帳」内の個別コンテンツ等を指定している例が散見され,特に講義時間内に参照する場合はその時間帯でのアクセス数が突出して増えている可能性がある。


 3.3. 環境ホルモン情報

順位 リンク元 アクセス数 割合 / %
1 HP/トップ 670 44.3
2 HP/ダイオキシン100の知識〔共著書籍情報〕 81 5.3
3 HP/私たちの生活が危ない! 環境ホルモンの現状〔1999年講演要旨〕 35 2.3
4 検索/google/「環境ホルモン」 45 3.0
5 検索/yahoo/「環境ホルモン」 29 1.9
6 検索/biglobe/「環境ホルモン」 15 0.9
7 島津環境ホルモン分析情報センター/環境ホルモン関連リンク 13 0.8
8 HP/ダイオキシン類による環境問題について〔1998年講演要旨〕 12 0.7
8 検索/so-net/「環境ホルモン」 12 0.7
8 HP/イリノイ環境保護局(IEPA)による環境ホルモンの仮リスト リスト新版 12 0.7
8 環境教育資料室 12 0.7
8 HP/化学トピック集 (1) 12 0.7
13 検索/nifty/「環境ホルモン」 8 0.5
13 検索/goo/「環境ホルモン」 8 0.5
13 Fumiのホームページ/環境ホルモンのページ 8 0.5
13 検索/msn/「環境ホルモン」 8 0.5
13 検索/google/「環境ホルモンの影響」 8 0.5
18 HP/環境ホルモンとして疑われている化合物の例 7 0.4
19 三重県/環境ホルモン調査結果  三重の環境も参照 6 0.3
19 HP/ステロイドホルモンの生合成と代謝 6 0.3
その他   504 33.4
  1511 100


 「環境ホルモン情報」は,“環境ホルモン”(内分泌撹乱物質)の名付け役となった1997年5月17日放映のNHKテレビ番組を見たのをきっかけに,手元の資料やWeb上法を参考にして作成・公開を始めたものである。3.1でも言及したように,問題に関する情報入手・公開等でインターネットが大きな役割を果たしており,その事実は今でも増幅されながら継続していると言ってよい。そのことは,トップページ同様多くのサーチエンジンから“環境ホルモン”でキーワード検索して訪れる例が多いことからもわかるであろう。
 さらに,7・8・13・19位の外部サイトからのリンクにおいては,メールでお互いにリンク依頼したり情報交換したりしている実践の成果の一端である。コンテンツ発信者が個人・企業・公的機関など多岐にわたっていることも,この問題の特質を示している。各サイト独自の情報を掲載した上で,足りない部分はリンクによって補い合うことは,Web上における類似情報の無駄な重複を避ける意味でも有用なスタンスである。
 なお,この中の三重県/環境ホルモン調査結果はリンク依頼メールが来たものであるが,後述の狂牛病情報ページに対してもリンクしてあった同県BSE広報サイトのURL変更を連絡してくれるなど,Webでの情報流通も当然の仕事と位置付けている県職員の積極性が感じられる。三重県民 e-デモクラシーなどからもわかるように,県民との双方向性の高いWebページ運営を目指している姿勢は,NHKのテレビ番組「サイエンスアイスペシャル:ネット社会の未来技術(10) 加速するネットワールド」(2002/02/23放映)でも紹介され,“真の意味でのバリアフリー社会を建設したい”とする北川正恭同県知事の考え方は高く評価された。三重の環境も,広範な環境関連情報を集約して利用者の使いやすさを図っている点で優れている。
 リンク元2位の「ダイオキシン100の知識」はすでに述べたように,書籍とWeb情報を融合させた試みの成果と見ることができる。
 3位は1999年の講演資料を一部修正して転載したもので,その後内容の更新はほとんど行なっていないのにアクセスが多くなっており,講演用に箇条書きで整理してある点が利用のしやすさに結びついている可能性がある。研究者や教員は講演や講義・論文などの多くの資料を電子情報にしていると思われ,この例のようにそれらを一部でもWeb上で公開していくことは今後さらに重要なことになっていくものと考える。


 3.4. 炭疽菌

順位 リンク元 アクセス数 割合 / %
1 Yahoo! ディレクトリ/炭疽 939 35.2
2 Yahoo! ニュース/米国炭疽菌事件 194 7.3
3 HP/トップ 72 2.7
4 検索/google/「炭菌」 56 2.1
5 検索/msn/「炭菌」 50 1.8
6 検索/yahoo/「anthrax」 43 1.6
7 動物衛生研究所/炭疽(そ)関連情報ミラー 41 1.5
8 検索/msn/「炭疽菌」 24 0.9
9 検索/msn/「炭そ菌」 24 0.9
10 検索/yahoo/「炭疽」 23 0.8
11 検索/goo/「炭菌」 20 0.7
11 検索/yahoo/「たんそ」 20 0.7
13 検索/yahoo/「炭そ」 19 0.7
14 炭疽菌のページ 17 0.6
15 検索/msn/「たんそ菌」 15 0.5
15 検索/google/「炭そ菌」 15 0.5
17 検索/yahoo/「炭そ菌」 12 0.4
18 検索/yahoo/「炭菌」 11 0.4
18 検索/msn/「たんそきん」 11 0.4
18 検索/yahoo/「Anthrax」 11 0.4
その他   1045 39.9
  2662 100


 2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ事件とその後の動きについては,世界中の多くの媒体で今なお様々な検証や論考が加えられており,Web上の情報も膨大なものとなっている。事件直後にアメリカ国内で炭疽菌郵送事件による感染者と死者が出たことから,NBCテロに対する恐怖も世界中に拡がった。日本ではすでに,やはり大都市の中で起きた地下鉄サリン事件を過去に経験しており,“見えないものに対する不安と恐怖”がさらに増幅されたと言えよう。「安全な生活」というものが努力しなければ得られないという時代になったことを,多くの人が実感させられている。また,同時多発テロ事件や炭疽菌事件の首謀者やその動機が,本稿執筆時点でも謎に包まれており,先進国での犯罪検挙率が低下していることなどとも合わせ,“見えない恐怖・答えのわからない不安”が蔓延しているようにも感じられる。
 そのような中で,「環境ホルモン情報」と同じような目途で炭疽菌情報ページを立ち上げたものの,事件発生直後からWeb上に様々な情報が飛び交ってその整理がままならない状況であることに,インターネットの急激な普及を実感させられている。重複情報が多かったり,特集ページを設けた報道機関等のサイトでは時を経ると情報の更新がほとんど停止したりする場合もあるなど,知りたい情報を入手するにはそれなりの継続的な作業が必要となっている。中でもアメリカのニュースサイトで日本語版を運営していたCNNが,2002年1月に記事更新を取り止めて同年4月には過去情報にもアクセスできなくなったことは残念である。なお2002/04/01現在,米国CNN.comのトップページで選択できる言語は,スペイン語・ポルトガル語・ドイツ語・イタリア語・デンマーク語・韓国語・アラビア語となっている#2
 NBCテロ(核物質や生物・化学兵器によるテロ)については多くの書籍や解説サイトがあり,大多数の科学者はその意味と恐ろしさを知っているのであろうが,科学者以外にとっては炭疽菌事件は予想外であったと思われ(ただしCについては,前述のように地下鉄サリン事件を経験している;分子表示プラグインを利用した「神経ガスと有機リン系農薬」参照),社会という枠組みの中での“予防”というものの難しさを感じる。科学は事件や事故が起こったあとではその原因の説明がある程度できるが,予知や予防はまだまだ難しい段階にある。NBCのうちNについては,核物質を持たなくても原子力発電所への攻撃で重大な事故を引き起こすことの可能性をアメリカの同時多発テロ事件が示唆したと言ってもよく,原子力発電所の設計基準の中では大型航空機の衝突は想定されていない(例えば,2001/09/29付け朝日新聞記事)。また,NBCのNについては,テロでなくても生物は常に他の生物からの攻撃に曝されている中で,人間が生み出した科学はその回避に大きな役割を果たしてきているし,日常的にも莫大な社会的コストをかけて予防・治療などに取り組んでいる。話題になった(あるいはこれから問題が大きくなり得る)生物関連の脅威の例をあげれば,O-157,レジオネラ菌,クリプトスポリジウム,エキノコックス,あるいは様々な耐性菌など,専門家以外も注目しておきたい問題は枚挙にいとまがなく,生活者として必要な情報をどう共有していくかも重要と考える。そのような状況の中で科学者あるいは科学の知識を持った人間が関与しなければ起こり得ない人為的なBCテロに対しては,大きな怒りを覚える。
 さて,リンク元1・2位の Yahoo! のカテゴリとニュースからのアクセスが全体の42.5%を占めていることから,「分子の学習帳」のノーベル賞関連コンテンツ同様,時事的なテーマについては著名なポータルサイトから関心のあるテーマにアクセスしている例が極めて多いことがわかる。
 暴力的とも言える速度で情報量が増える中で,ロボットによって情報を収集するサーチエンジンの更なる技術進展が望まれる一方,サーファーなど人手によって有用なサイトを紹介していく検索サイトの維持作業は大変なものであろうが(大きな時事問題などでは24時間態勢も必要),Webユーザーにとってのニーズは高いものがあり,こちらに対しても期待し続けたい。なお,検索サイトの中にはロボット系・ディレクトリ系双方を使い分けられるようになっているところも多いほか,同じロボット型検索エンジンを利用している例もあるので,各サイトの特色を理解して活用することが必要である。詳細は検索デスクYahoo!/ホームページの検索などを参照されたい。
 また,“審査”型検索サイトに掲載されたWebページ作成者の立場としては,その責任も大きくなる面があり,情報の信頼性や新規性などを常に高めていくきっかけとして捉えたい。この点は,インターネットの世界での暗黙の協同作業の一つと言えるのかも知れない。
 上表の検索サイトからのアクセス例では,炭疽・炭そなど同じ語でも異なった書き方をしたり“炭素菌”など間違えた語で検索する例も多くあり,日本語での検索の難しさがわかる一方,ページ作成の場合はMETAタグのキーワード記述によりロボット型検索エンジンのヒット率を高めて利用者数を増やすことが可能であることもわかる。
 7位の動物衛生研究所/炭疽(そ)関連情報は関連研究機関の研究資料等のリストとリンク集のページに掲載していただいたための成果であり,次項狂牛病情報についても同研究所のページからのアクセスが2位となっている。官公庁など公的サイトではなかなか個人ページへのリンクがなされない場合が多いのが実情である中では例外的な扱いと見ることもでき,前項の環境ホルモン情報に対する三重県のサイトの計らいと共通するものがある。
 このことと関連して,本サイトはProvider版とSINET版があることから,外部からはどちらにリンクされるかについて“ac.jp か ne.jp か?”と題して簡単にまとめたことがある。筆者の場合,リンク依頼があればできるだけProvider版の方へお願いしており(SINET版のURLは異動等で変わる可能性がある),多くの場合受け入れてもらっていることが図2のような結果に結びついていると考えている。サイト運営者がどのような立場にあるかは,Webで検索する際に考慮する必要がある場合もあるが,本当に必要な情報が記載されているか否かで判断するのが第一要件であり,前述のようにWeb情報は個人の力に拠るところが大きいのも事実であるし,大学や公的機関からの更なる情報発信が待たれるのもまた現実である。なお,大学の研究者が個人的な意見などをWebで発信する場合は,ac.jpのついたサーバをを使わずに,独自ドメインやプロバイダを利用して行なう場合も多く,それではac.jp(あるいはgo.jpも同様)にはどのような情報を掲載すべきなのかについて考えてみるのも興味深い。これもインターネットという新しい環境が投げかけている問いなのかも知れない。
 14位の炭疽菌のページは,多くの社会問題についての有用な情報集となっている個人サイトからのものである。

#2 2002/04/14の再確認ではCNN日本語版が復活し,米国版でも日本語選択が可能になっているが,過去の記事は参照できない。


 3.5. 狂牛病とプリオン

順位 リンク元 アクセス数 割合 / %
1 Yahoo! ニュース/BSE(牛海綿状脳症) 1654 39.3
2 動物衛生研究所/牛海綿状脳症(BSE)のページミラー1 353 8.4
3 HP/トップ 168 4.0
4 検索/goo/「狂牛病」 143 3.4
5 検索/yahoo/「狂牛病」 77 1.8
5 検索/yahoo/「プリオン」 77 1.8
7 検索/google/「狂牛病」 71 1.7
8 検索/google/「プリオン」 66 1.6
9 Useful INOUE Home page 50 1.2
9 検索/goo/「プリオン」 50 1.2
11 検索/google/「狂牛病について」 45 1.1
12 検索/biglobe/「狂牛病」 24 0.6
13 検索/biglobe/(検索語不明) 21 0.5
13 検索/nifty/「狂牛病」 21 0.5
15 有機農業・環境問題のホームページ/狂牛病LINK集 15 0.4
16 HP/タンパク質の高次構造(α-ヘリックスとβ鎖) 14 0.3
16 検索/yahoo/「プリオン病」 14 0.3
18 検索/yahoo/「狂牛病 画像」 12 0.3
19 Jedline和英辞書(医歯薬篇) 11 0.3
20 検索/nifty/「プリオン」 10 0.2
その他   1310 31.1
  4206 100


 2001年9月にヨーロッパ以外では初めて日本で感染牛が確認されたBSEの問題は,前項炭疽菌と同じく,その発症の仕組みの解明や予防,診断,治療などの面で科学の役割が大きい問題である一方(それを悪用するのがテロであるという側面もある),過去から蓄えられ今後も続けられる研究の成果を,社会システムの中でどう活かし得るか,あるいはなぜ活かし得なかったか,という問題でもある。
 関係省庁の対応のまずさや,立て続けに起こった食肉偽装事件などもあって,私たちの毎日の生活に関わる“食”というものがどういう位置にあるのか,改めて考えさせられる事件の一つである。情報と同じように食品の流通もグローバル化しており,輸入野菜の農薬や家畜に与えられるホルモン剤・抗生物質などの問題などとも合わせ,その面からの考察も加えられている。また,今後の“食”を考える上で,情報というものが一層重要な役割を果たしていく必要があることにも注目しておきたい。
 報道サイトのニュースや,Web上の情報などをトレースしていて,問題を乗り越えていい方向に流れを向けていこうとしている消費者や生産者の努力が見えると救われる思いがして,そのような動きがもっと大きき取り上げられてもいいのではないかと感じている。これは今回に限らず,多くの事件について言えることなのだけれど。
 身近な問題である上に連日のようにマスコミで報道されることもあって関心は高く,今回のアクセス解析では最大のアクセス数となっている。1位は Yahoo! ニュースからで,全体の4割を占める。
 外部サイトからのアクセスは,2・9・15・19位に出ており,全体の8%を当たる2位の動物衛生研究所/牛海綿状脳症(BSE)のページ#3は,この問題に最も関係の深い公的機関の一つからのものである。また9位のUseful INOUE Home pageは同研究所に籍を置く研究者が個人の立場で発信しているサイトであり,BSE以外に口蹄疫,炭そ病,エボラ出血熱などについても国内外の資料へのリンクなどが充実している。
 15位の有機農業・環境問題のホームページ/狂牛病LINK集は有機農産物の生産や購入のグループに関わっている個人による情報サイトのコンテンツである。“食”の安全に関するWebページを網羅した有用なサイトとなっている。
 19位のJedline和英辞書(医歯薬篇)は明海大学によって運営されている歯学・医学・一般用語の辞書サイトであり,大学としてWeb上でのサービスを行なっている好例と言える。トップページのトピックスとして狂牛病や花粉症のリンク集を掲載しているものである。
 狂牛病は,もともと体内にあるタンパク質である正常型のプリオンが異常型になって病原体となり,感染症を引き起こすプリオン病の一つである。その突飛な機構を解明したプルジナー教授は,1997年にノーベル生理学医学賞を受賞しており,今では正常・異常プリオンタンパク質のCGが多くのサイトに掲載されている。上記16位のサイト内コンテンツである「タンパク質の高次構造(α-ヘリックスとβ鎖)」は,それらの基本構造を知る上で有用なものと考えている。

#3 2002/04/18に,「動物衛生研究所(NIAH)/牛海綿状脳症(BSE)のページ」へのアクセス状況(2001年度)の資料を追記。


4. 狂牛病情報ページへの接続元ドメインの解析(2002/01/01-31)
 最後に上記5コンテンツのうち,最もアクセス数の多かった狂牛病情報について,接続元ドメインのデータ上位40位までを以下に示す。


図4 2002年1月の狂牛病情報ページへの接続元ドメイン(赤下線はac.jp,緑下線はgo.jp)

順位 接続元ドメイン  アクセス数   割合 / % 
1 ocn.ne.jp 375 10.3
2 infoweb.ne.jp 192 5.2
3 mesh.ad.jp 177 4.8
4 dion.ne.jp 173 4.7
5 odn.ad.jp 159 4.3
6 bbtec.net 99 2.7
7 so-net.ne.jp 89 2.4
8 plala.or.jp 78 2.1
9 home.ne.jp 72 1.9
10 nttpc.ne.jp 60 1.6
11 zaq.ne.jp 48 1.3
12 2iij.net 40 1.1
13 asahi-net.or.jp 31 0.8
14 osaka-ue.ac.jp 26 0.7
15 teikyo-u.ac.jp 25 0.6
15 seikyou.ne.jp 25 0.6
17 dti.ne.jp 23 0.6
18 catv.ne.jp 22 0.6
19 tiki.ne.jp 20 0.5
19 uu.net 20 0.5
19 ttcn.ne.jp 20 0.5
22 aol.com 17 0.4
23 kasei-gakuin.ac.jp 15 0.4
23 wakwak.ne.jp 15 0.4
25 mbn.or.jp 14 0.3
25 hakuoh.ac.jp 14 0.3
25 nihon-u.ac.jp 14 0.3
25 zero.ad.jp 14 0.3
25 osaka-u.ac.jp 14 0.3
30 kagoshima-u.ac.jp  13 0.3
30 spu.ac.jp 13 0.3
30 sut.ac.jp 13 0.3
30 affrc.go.jp 13 0.3
34 maff.go.jp 12 0.3
34 alpha-net.ne.jp 12 0.3
34 u-tokyo.ac.jp 12 0.3
37 osaka-cu.ac.jp 11 0.3
37 kindai.ac.jp 11 0.3
37 eonet.ne.jp 11 0.3
37 odn.ne.jp 11 0.3
その他   1603 46.2
  3626 100
:ac.jpから :go.jpから


 接続元ドメインの上位40位までの結果を見ると,やはりプロバイダからの接続が大多数を占めており,第1位は OCN で全体の10%以上になる。以下,INFOWEB(NIFTY),MESH(BIGLOBE),DION,ODN と大手が続き,6位に話題の Yahoo! BB が入っている。
 アカデミックサイト(ac.jp)からのアクセス状況から見て,多くの大学からの利用があることがわかる。同じ大学から10件あるいは20件以上の接続があるのは,講義の課題(あるいは1月という時期から卒業研究)等で学生が検索してアクセスする,教員が学生にサイトを紹介する,教員自身が情報検索などにより利用する,などの状況が考えられる。このことは,現在の学生は他大学の講義もある程度参考にできる(あるいは高校生が入学前に疑似体験できる)という事実を示しており,近年盛んになっている大学間の単位互換制度やネット大学の増加などをよって今後も進展していくであろう。また,自由にインターネットを利用できる環境にある大学においては,繰り返しになるが学生も含めて情報を閲覧するだけでなく自らも発信していく姿勢が求められる。
 なお,高校生のWeb利用学習という点については,名古屋市の高校教員による,『コンピュータ室で化学の調べ学習』として,“生活と化学”という視点で生徒達が「生活環境化学の部屋」のサイト内コンテンツや外部リンク資料を閲覧して作成した発表データを公開した実践報告(2002年3月)がある。
 政府機関のgo.jpでは,30位に affrc.go.jp(動物衛生研究所)があり,これは3.43.5で記した相互リンクによるものである。また34位の maff.go.jp は農林水産省関連で,やはりこれも関係機関からの利用である。


5. おわりに
 以上,わずか5つのコンテンツの1ヶ月間のアクセス分析から,各ページ開設の意図やサイト内での位置付けによって,利用者のアクセス形態がかなり異なるなど,様々なことが把握できた。このような解析が可能なインターネットという仕組みにも,改めて新鮮な感激を感じている。
 1996年7月に「生活環境化学の部屋」サイトを開設してからすでに5年以上経過した。この間,急激な変化を見せてきたインターネットという人類が新しく手にした環境は,今後どのように進化していくのだろうか。筆者が念頭に置いている「知の共有」のためのツールとして,あるいは冒頭に記したような「安全な生活」のための個々人の情報入手経路としてだけではなく,ネットに接続にしているすべての人の多様な思惑や意思によって思いもかけぬ進展も見られるだろう。
 その中で,とりわけ現在大きな課題になっている“科学・技術と社会”という視座においても,インターネットの担う役割は大きなものがあろう。ここで言及しておきたいのが,本サイトのコンテンツ作成の上でいつも大きなヒントを与えてくれたNHKのテレビ番組「サイエンスアイ」が,残念ながら2002年3月で放送終了となったことである。最終回では6年間のテーマを振り返ってくれたが,1996年4月放映の第1回のテーマは,何と『新病原体プリオン 狂牛病のナゾにせまる』だったのである。この一事からしても,科学の蓄えている知識の量と,予知・予防の難しさとの間のギャップを感じざるを得ない。最終回でコメンテーターの一人が,どんどん広がっている専門家と市民の間の溝をどうやって埋めていくか,あるいは科学ジャーナリストの育成が必要ではないかという発言があり,様々なコンテンツを通してより多くの人に科学に親しんでもらいたいと考えている筆者としては共感するところがあった。
 そのことも視野に入れつつ,これからも折りにふれてアクセス分析を行って利用者がどのような情報を必要としているのかを見定めながら,新しいコンテンツをWebという海に投げかけ続けたい。


 最後に,本解析の中で紹介した「生活環境化学の部屋」内コンテンツにリンクする労をとってくださっている各サイトの運営者に深く感謝いたします。もちろん,本資料では紹介できなかった多くのページからリンクされていることも,今回の分析結果の大きな力になっており,本当に有り難く思っています。インターネットの世界について,直接・間接にご教示くださっている各位にも改めて御礼申し上げます。



■ 本文掲載後の追加情報




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