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2005/06/12は,新潟水俣病が公式に確認されてから40年目にあたる(ブログに記載)。水俣病は合成化学物質が多くの人間に甚大な被害を及ぼすという環境問題の発端の一つとも言えるが,その後も多くの化学物質が生命の世界に様々な影響を及ぼし続けている。
新規物質が世に出た時点での科学の水準では,その有害性や環境中での動態などを正確に予測できないこともあり得ることから,「予防原則」という考え方が注目されている。先日,その解説書が出版されたので,掲載記事の一部を引用して紹介としたい。水俣病のメチル水銀やや切迫流産防止薬などとして用いられたDES(ジエチルスチルベストロール),ポリ塩化ビニルの可塑剤DEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)などの化学物質だけでなく,遺伝子組み換え,BSE,放射線,電磁波など,過去と現在の幅広い問題を例示しながら,国内外における予防原則適用の現況を詳述している。
ここでは,服用者とそのこども達に下表のような影響を及ぼしてしまったDESを含んだタンパク質のデータを参照できるようにした。連載31で取り上げた4種類のエストロゲン受容体のうちの一つである。シェーンハイマーの動的平衡の模式アニメで示したように,生体内高分子の世界に様々な天然化合物,合成化合物が流れ込んでいる現実をイメージし続けることは大事なことだと考えている。
DES(ジエチルスチルベストロール)による影響;文献[1]p.142より(綿貫,1999)
※参考:Googleによる“diethylstilbestrol”イメージ検索結果,同“thalidomide”
1. 確定されている事実
膣の明細胞がん(DES娘) 膣上皮の変化(DES娘) 生殖器の奇形(DES娘) 早産(DES娘) 乳がん(DES母) 2. たぶん多いであろう
子宮外妊娠(DES娘) 不妊(DES娘) 生殖器の異常(DES息子) 3. 統計的に可能性がある
頸部過形成上皮内がん(DES娘) 自己免疫疾患(甲状腺機能異常も含む) 不妊(DES息子) 精巣がん(DES息子) 4. 理論的に考え得る
乳がん(DES娘) 心理的な性の異常(DES娘,DES息子) 前立腺肥大,前立腺がん(DES息子)
DESを含む3ERDのPDBsumデータ集で作成したアニメ作例
ビスフェノールAが結合したエストロゲン受容体γより
DESを含む3ERDのSITE(PDBsum)(左)とSITE(右)の同時表示のアニメーション
[TOPIC] 以下の論文・資料でDESについて言及されています。
- 前田紘輔・Alexander SCHUG・渡邉博文・福澤薫・望月祐志・中野達也・田中成典,『エストロゲン受容体のアミノ酸変異によるエストラジオール結合エネルギーの変化』,Journal of Computer Chemistry, Japan, 6(1),33(2007)/PDF版
“エストラジオール(Estradiol ; EST,Figure 1)は女性ホルモンであるエストロゲンの一種である。この受容体に結合するリガンドは複数存在することが確認されている。本来結合するはずのESTなど天然のエストロゲンに加えて、骨粗鬆症治療薬であるラロキシフェンや、ジエチルスチルベステロールなどが結合する。
これら以外にも、エストロゲンに似た化学物質として受容体に結合してしまい人体に悪影響を及ぼす環境ホルモン(内分泌撹乱物質)があり、問題視されている”
参考:PDBデータのLigand結合部位(Chime版)による1qkuChain AのSITE部分(リガンドは17β-エストラジオール)
※上掲論文 Figure 3 に対応するが,SITEは異なり(画像はPDBデータに記載のもの),水素も付加されていない。
※参考:同論文に言及したブログ記事- 第18回内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会議事録(厚生労働省,2006/03/14)
例:“神経幹細胞のin vitro系における解析で、エストラジオール、ビスフェノールA、ノニルフェノール、DES等が、この神経幹細胞に対してさまざまな影響を低濃度で及ぼすというデータを得ておりまして、vitro とvivoをつなげていきたいと考えております”
■14の歴史上の出来事(2001年 欧州環境庁の予防原則報告書より;文献[1]p.163→筆者サイト資料) 1) 漁業の崩壊:乱獲 2) 放射線:早期警告と影響の遅れ 3) ベンゼン:欧米の労働基準設定における歴史的認識 4) アスベスト:神秘的な力から邪悪な鉱物へ 5) ポリ塩化ビフェニル(PCBs)と予防原則 6) ハロゲン含有炭素化合物(ハロカーボン):オゾン層と予防原則 7) ジエチルスチルベストロール(DES)物語:胎内曝露の長期影響(妊婦に対するDES使用の認可) 8) 成長促進抗生物質:常識への抵抗 9) 二酸化硫黄:人の肺の保護から遠く離れた湖の回復まで 10) ガソリンの添加剤として使用される鉛代替品メチル-t-ブチルエーテル(MTBE) 11) 五大湖の化学物質汚染における予防原則と早期警告 12) トリブチルスズ(TBT)防汚剤:船、巻貝類、インポセックスの物語 13) 成長促進ホルモン剤:予防原則あるいは政治的リスクアセスメント 14) 「牛海綿状脳症(BSE)」1980年代~2000年:繰り返しの「安全の保証(安心)」がどのようにして「予防」をだめにしたか |
参考:リザダイトの結晶モデル(Virtual Museum of Minerals and Moleculesより).リザダイト(lizardite;粒状)Mg3Si2O5(OH)4 はクリソタイル(chrysotile,白石綿・温石綿;繊維状)Mg6Si4O10(OH)8 と同じ理想化学組成 Mg3Si2O5(OH)4 の蛇紋石(serpentine)群に含まれる.
※他の参考Chimeデータ:タルク(滑石)Mg3(OH)2Si4O10(Inorganic Chemistry 3.0 - Formula Index)